おしゃべりコンサート 音楽の三要素 その2
司会:メロディーの話なんですけどね、リズムの次はメロディーいうことなんですが。やはり、音楽は、メロディーがなければ、音楽にならないと思うんですけどね。しかも、メロディーには国境がありません。どこの国の音楽にもメロディーはございます。たとえば、日本で、私がメロディーとして素晴らしいなと思うの、赤とんぼをお願いしたいと思うんですが。
音源 赤とんぼ
司会:ただ、メロディーが美しいっていうのはね、非常に個人的な差があると思うんです。私が美しいと思うメロディーを、ほかの人が美しいと思うかどうかは別であって、しかも、今のような赤とんぼのようなメロディーには、私が美しいと思うこの心の中に、日本人としての郷愁感というものが、多分に占めてると思うんです。同じ言い方をすれば、イギリスの人々が、ダニーボーイっていう綺麗な曲がございますね、それを、私たちが美しいなと思う気持ちとは違う、本当に美しいなと思う気持ち、それはやはり日本人が聞くのと、イギリス人が聞くのとでは違うと思うんです。
ま、メロディーの美しさについてはこれくらいにしときましてですね、本当にメロディーっていうのはそれだけで音楽が成り立つのかどうか、ちょっと実験してみたいと思います。たとえば、シューベルトの曲に、死と乙女という綺麗な曲がございますが、これを弦楽四重奏にした、その第二楽章の冒頭、これ死と乙女の主題は使ってないんですけども、これをですな、ちょっと、メロディーライン、メロディー線だけで弾いてもらえませんかね。どんな曲になるか。
音源 死と乙女メロディーのみ
これが、素晴らしい音楽であると言えるでしょうか。では、それにリズムをつけていただけますか。
音源 死と乙女メロディー+リズム
やっと音楽らしくなってきましたね。音楽には、メロディーだけではいけない。リズムとメロディーが両輪のごとく一緒になって、初めて音楽になるのである。では、これにハーモニーをつけてみましょう。お願いします。
音源 死と乙女メロディー+リズム+ハーモニー
リズムとメロディーは何の変哲もない曲が、ハーモニーをつけるとこんな素晴らしい曲になります。もう1つ曲を見つけてあるんですが、同じことをやっていただけますでしょうか。まず旋律線だけでお願いいたします。
音源 ベートーヴェンメロディーのみ
これはですね、実はかの有名なベートーヴェンが作曲した、交響曲第7番の第2楽章の初めなのです。素晴らしい曲でしょ(笑)。これに、リズムをつけてください。
音源 ベートーヴェンメロディー+リズム
ありがとうございます。それでは先程と同じように、ハーモニーをつけていただいて。
音源 ベートーヴェンメロディー+リズム+ハーモニー
どうですか、音楽って素晴らしいですね。やはり、この音楽の三要素は、全部必要なんです。で、メロディーの話題の終わりにですね、素晴らしいメロディーをお願いしたいと思うんですけれども。エリーゼのために、そしてショパンのノクターンの21番、これを、先生が、心に残る曲として、思い出を添えて、情緒豊かに演奏してもらいたいんですが。お願いいたします。
音源 エリーゼのために&ノクターン21番
司会:ありがとうございます。先程お話したように、ハーモニーも音楽の中で重要な役割をになっております。日本人に最も欠けておるのがハーモニー感であると言われます。私の考えでは、ハーモニーというのは、あれはたぶん西洋の讃美歌の中から生まれたのではないか、こう思うんです。先生はどう思われるか知りませんけどね、教会音楽が大衆音楽の担い手であった限り、ハーモニーもその中から生まれたのだと思うんです。讃美歌集を見れば、まず、二声、三声、四声、いうふうに分かれております。小さい頃からこういうものに親しんでおればね、ハーモニーに強くなるのもごく当たり前のことやと、こう思うんです。日本のお経ではそういうことはないんではないか。どうでしょう。
音源 ハーモニーがない
司会:ハーモニー感がない、けれども、いろんな音楽にはハーモニーがある。日本の音楽にもハーモニーが実はあるんだけれども、これは音楽になっていないんだ、いうことかな。
音源 ハーモニーの起源
司会:なるほど。日本のお経ではまず・・・けれども、そういうことは起こりうる可能性はあるわけですな。日本のお経でもね。ただ、そういうことは非常に日本のお経では難しいのかな。
田所:まあ、別に難しくもないでしょうけどもね。
司会:先生なんかは、日本のお経に5度上で歌うとかね、5度下で歌うとかね、ハモることは、可能なんですか?
田所:そりゃまあ、やろうと思えば。
司会:不可能だと思いますけどね。実はね、ここに、般若心経を持ってきておるんです(笑)。ちょっと見てくれます?
田所:はあ。
司会:それですね、私が線を引いたところですな。ちょっと私がいうてみるから、5度上でハモっていただけますか(会場、笑いとざわめき)。そんな芸当ができるかどうか、ちょっと聞いてみたいわ。まあプロですからな。いきますよ。さんはい、色不異空 空不異色・・・やらんかい(笑)。
田所:最初にいっぺんやってもらわないと、5度上がどこか、出してもらわないことにはわからんやないですか。
司会:あ、なるほどなるほど(笑)。あーーーーーー
田所:はいはい、わかりました。
司会:ええですか。さんはい、
色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 (↑)受想行識亦復如是 舎利子(会場拍手喝采)
司会:なるほど、さすがに音程を途中で変えたんですが付いてきはりましたな。
田所:むちゃくちゃやりますなあ(笑)。
司会:うーん困ったなあ、後の話が・・・うん、なるほどハーモニーをつけることができるのはわかったけれども、やっぱりこれが音楽として発達しなかったのは、リズムとかメロディーがないからなのかな。
音源 なぜお経ではハーモニーが発達しなかったか
司会:話変わりますけどね、先程先生のお車の中にあった、倍音。たまたま、調子はずれの声を出した、また、男性と女性が一緒に声を出した、それが倍音になっていた、耳に快く聞こえた、そういう倍音というのはどういうものかというのを、ちょっと音を弾きながら教えていただけませんか。
音源 倍音とは(途中切れてて、分割されてます)
司会:みなさま、家でちょっと実験をされるとよくわかると思いますけれども、今のドの低い音を鳴らされると、そのドの低い音の弦をパっと指で押さえてですね、止めてしまうんです。それでもなおかつ音が鳴っている、その鳴る音は何かと申しますと、オクターブ上のドの音だ、というのはわかると思うんですけど、それとは別にですね、ソの音、五度上の音も一緒に鳴るんですね、これを倍音といいます。もっと耳を澄まして聞くと、不思議なことに、シのフラットの音なんかも一緒に聞こえてきます。
田所:まあ、シのフラットが聞けたらすごいですけどね。ふつうは無理やと思います。
司会:まあ、それは自分で、直に、ピアノの前で聞かないとわからないので、家に帰って一度やってください。たいへん楽しい実験ですので。こういうの夏休みの宿題なんかで出すといいかと思うんですけどね。
それでは、前半の話の締めくくりにですね、圧倒的なハーモニーを聞かせていただきます。ラフマニノフのプレリュード、どうぞ、聞いてください。
音源 ラフマニノフ 前奏曲 op3-2
司会:それでは、ここで、前半の終わりといたします。10分間の休憩をもちまして、また後半を始めさせていただきます。