あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

様式とテクニックが同時に学べる ピアノのための バロック名曲集 下巻 中村菊子編 全音

 アリシアさんのリクエストにより<バロック名曲集>の下巻を取り上げます。先に音友の、<バロックアルバム>を取り上げましたが、一部重なっている曲があります。また<バロックアルバム>の方は原典を尊重し音以外にほとんど記されていませんが、こちらは実用を旨として、編者による記号が付加されています。

番号 曲名 作曲者 難易度 評価
 1 ソルフェージェット C.P.E.バッハ  13  A
 2 ホーンパイプ パーセル  12  C
 3 トランペット・チューン パーセル   8  A
 4 ソナタ ヘンデル  14  B
 5 アントレ ヘンデル  11  B
 6 プレリュード ヘンデル   9  B 
 7 シャコンヌ ヘンデル  16   B
 8 ソナタ L.94(K.74) スカルラッティ  12  B
 9 ソナタ L.386(K.35) スカルラッティ  13  B
10 ソナタ L,S.11(K.415) スカルラッティ  14  B
11 ソナタ L.413(K.9) スカルラッティ  14  A
12 舞踏組曲 フロベルガー  12  B
13 プレスト F.バッハ  16  C
14 コレンテ フレスコバルディ  11  C
15 シャコンヌ クーナウ  12  B
16 ファンタジア D テレマン  11  C
17 フーガ テレマン  13  C
18 ファンタジア B テレマン  12  B
19 ガヴォットと二つの変奏曲 パッヘルベル  11  B
20 ロンドによるメヌエット リュリ   8  B
21 怒りの風 ダカン  16  C
22 小さなフーガ ツィポーリ   7  B
23 シシリア風パストラール ツィポーリ   8  C
24 小さな風車 クープラン  11  A
25 取り入れをする人たち クープラン  13  A
26 目覚まし時計 クープラン  14  B
27 ドイツ民謡 スヴェーリンク  13  C
28 めんどり ラモー  16  A
29 ファンタジア BWV906 バッハ  19  A
30」 バレー キンデルマン   8  A

1.表情がややオーバーな気がする。

2.装飾音を省けば大分易しくなるが、この曲は余り省きたくない。

4.ヘンデルはにぎやかにがちゃがちゃ弾くと感じが出るものが多い。これもそういうソナタ。

7.6と7は本来一続きの曲。7はもともとは62ものヴァリエーションがある(もうええという感じの曲)。原曲よりよほどすっきりした。

8~10。この3曲はスカルラッティのソナタの中でさほど有名ではない。その中では10が一番よく弾かれるかもしれない。

11.これは超有名曲。トリルの弾き方は賛成できない。全体のテンポが相当遅くなってしまう。この種のトリルは必ずしも3拍全部トリルで弾かなければならないというわけではない。4段目のもので言うなら、32音符で5個弾いて後はそのまま延ばしておけばいい。

12.バロックの組曲の原型を学ぶという意味はあるが、逆に言うとその程度の意味しかないかもしれない。なおクーラントが後にはもう少し速くなる。

15.シャコンヌは同じ形の低音を繰り返し、その上に次々と変奏がなされていくのであるが、そういう意味合いを考えるといちいち繰り返しの必要はないとも言えるのだが、この曲の場合4小節と一つのサイクルが短いだけに悩むところ。一番簡単なのは全部つけてしまう、少なくとも最初と最後は省けないような気がする。(俗に1番かっこ、2番かっこのあるものは省けないという説があるが、本質的な考察をしている見解ではない。たとえばこの曲の一番かっこの中は、ほとんどすべて4小節前にごく一部違うだけの同型がある。省こうと思えば省けないわけではない。あるいはその説の通り1番かっこ、2番かっこのあるものだけをつけて他はすべて省いたら珍妙としか言えない)

17.速さによって大分難易度が変わる。8分音符はレガート、4分音符は迷うところ。私は原則離します。

18.デュナーミクは余り大げさにしない方がいい。

19.現代の和声感覚からすると、少し終わりが妙に聞こえるかもしれない。

21.速さにもよるが、3ページ目2段2小節目の装飾音は省いても良いと思う。

22.フーガだからと言って構えることは何もないという見本のような曲。これと23といかにもイタリア風で明るい。

24.装飾音符の付いた八分音符の処理が異なる。私は揃えた方がいいと思う。これも速さによるが、16分音符の上に書かれた装飾音は省いても良いだろう。

25.2ページ4段4小節目左手四分音符のFisが5となっているが、もちろん次のDの誤り。

26.わたしはこの曲の八分音符の跳躍進行が主になっている箇所はノンレガートの方がいいと思う。

28.有名な曲です。トリル記号の注釈から見ると編者は余り速いスピードは想定していない。

29.これも余り速いテンポは想定していない。テンポが速いとスタカートがほぼ不可能になる(スタカートで弾かなければならないことはない)。

総合評価      B

 バロックの曲集を編纂するときに問題になるのは、強弱記号その他をどこまで付け加えるのか、それからバッハを始めとする超有名作曲家の曲を含めるかどうかという点であろう。

 このシリーズは、記号に関しては細かく付け加える。作曲家に関してはバッハといえども除外はしない、という方針である(上巻にバッハの曲は多数含まれている)。以前検討した「バロックアルバム」とはどちらの点でも異なっている。

 教師、使用者の好みによりどちらを使うかが分かれるところであろう。教師はともかく生徒は二種類も持つ必要はないからである。

 評価Bとしたのは以上のような点において、当研究会が「バロックアルバム」の方針の方を良しとしたからというわけではない。どちらの方針であってもそのことによって評価が左右されることはない。

 評価Bになった最大の理由は、この下巻に収録されている曲目が、余り有名でない曲が多い(有名でなくとも優れた曲であれば構わないのだが)ということがまず一つ。

 もう一つは表を見てもらえればおわかりのように、難易度があまりにもばらついているということ。編者は「表面ごくやさしそうにみえても、弾いてみると内容が深くまとめにくい・・」としているが、私の経験からは、表面が易しければ、弾いているうちに少々深い内容でも大抵生徒はついてくることができる。正直なところ、本来下巻に属する曲+上巻の落ち穂拾い、ではなかろうかという気がする。

 ということで下巻に関しては「バロックアルバム」より低い評価となったが、もちろんこの本を単独で見れば、それなりに優れた本である。実用を旨としているだけに、特に独習者にはお薦めかもしれない。

 なおプラルトリラーを編者はほとんどすべて上からの4音としているが、そしてそれが最も原則的奏法なのであるが、初学者においては主要音からの3音でも構わない、と、これは同時代人の発言である。初学者は一部修正した方がいいかもしれない。

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