あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

小原孝・磯田健一郎  ねこはとってもピアニスト 1   東亜音楽社

 今回は数年前人気絶頂だった(現在でもかな?)小原孝さんの最初の作品集「ねこはとってもピアニスト」の一巻を取り上げることにする。1990年に出されたもの。無印が小原さん、*印が磯田さんの作曲。

  曲名 難易度 評価
  仔ねこの情景  12  B
テンダネス・ウィンドウ  15  B
  我輩はジルである  14  A
MA-DO-RO-MI  10  C
  母ねこのまなざし  10  A
こたつの思い出   6  C
ガーデン・ウォーク  11  B
  恋するジル君  10  A
ジルのペティ   8  C
  夕やけジル君  12  A
雨がすぎても  12  A
子ねこが生まれた日   7  A
  ジル君はピアニスト  15  B
  子守歌(シューベルト=小原孝)   7  A
さよならこんんちは   6  C

○仔ねこの情景 2小節目の左手の指は53,次が21から4、そして21から3だと思う。手が小さいとここが苦しい。Bというのは楽曲としての評価で、教材としては使いにくいだろう。

○テンダネス・ウィンドウ BGMという感じですな。

○我輩はジルである 手が小さくて最初の左手が届かない場合、最初は下のCを省き、4拍目は上のDCを省き3回目は(これはどちらでもいいが)、また下のCを省くとよい。アドリブの1回目はもちろんグリッサンド、2、3回目で一番簡単で効果的なのは、クラスターを使う。(テクニックに余裕のある人は2回目はアルペジオをいったりきたりしながら上に、3回目は左右のクラスターを急速に交互に下降させる)。

○MA-DO-RO-MI 最初の左手は指を拡げて無理矢理レガートにするより、ペダルに任せて和音の前で一旦手を離す方がいいと思う。教材としては不向き。

○母ねこのまなざし 手が大きければもっと易しい。この曲の繰り返しは省いても良いかもしれない。少し長い気がする。

○こたつの思い出 ドビュッシー「雪が舞っている」のもじりというか・・外は雪が降っているということなんでしょう。単独で演奏するのはいかがなものか。

○ガーデン・ウォーク イントロと主部で微妙にフィーリングが異なるような感じがするのは私だけだろうか。

○恋するジル君 8分音符をスイングするのかどうか悩むが、この本の趣旨から言えばたぶん好きなように弾けばよく、私は断然スイングするべきだと思う(書法からすると3ページ1段目の右手は作者はスイングしないのかもしれない)。

○ジルのペティ サティのもじりでしょうかね。「思いっきり甘ったるく」弾く感じの曲ではないような気がするが。

○夕やけジル君 右ページ4段1小節目の右手Fの音、注意して出さないと雰囲気を壊してしまう。

○雨がすぎても これも二人の合作のようだが、こちらは全く違和感がない。終わり方が難しい。

○子ねこが生まれた日 弾くだけなら易しいんですが・・。ある程度センスが分かるでしょうね。

○ジル君はピアニスト モーツアルトの545,エリーゼ、小犬のワルツに「猫ふんじゃった」を組み合わせた正真正銘のパロディ。譜面を見たときは面白いと思ったが、いざ弾いてみると・・最初の二つはちょっと苦しいなという感じ、小犬は逆に完璧に「猫」になっていてほとんど小犬らしさがない。まあ、音楽でパロディを作るってのは、難しいですねえ。

総合評価   A-

 A-というのは曲集としての評価。教材としてならBでしょうね。

 楽譜屋でパラパラと見たときには「ジル君はピアニスト」に感激してしまったのだが、実際弾いてみるとそれはまあ感激するほどのことはなく、むしろ他の単品に珠玉とも言える作品があった。

 ただおそらく作者はこの曲集をこどもたちのピアノ教材としてなどという意識は全くなく作ったと思われる。相当弾ける人が自分でさらりと弾いて楽しむという感じの曲集でしょう、つまり生徒用というより先生用の本かもしれない。手が小さいと話にならないし、指使いも一切記されていない。教材として使うときには多少、先生の助けがいるかもしれない。

 発表会で受けそうな一押し曲は「我輩はジルである」。しみじみと情感を引き出せそうな曲は「母ねこのまなざし」「夕やけジル君」あたりでしょうか。

 二人の作者のうち小原さんの方が評価が高い。自分自身がエンターテイナーである分、「受け」「ポピュラリティ」というものを知っている、多少そういうものに配慮している、ということなのでしょう。磯田さんの作品は劣ると言うよりは、「自足している」「受けようが受けまいが関係なく己の世界を形作っている」という感じがします。それはもちろん芸術の必要条件なのです。しかし他人に理解されないと結局なんにもならない、そのバランスが大切なのでしょうがね。

                  

追)作曲者からのお便りです。

ありがとうございました。 投稿者:おばらたかし  投稿日: 5月 3日(金)04時13分47秒

閻魔帳に僕の楽譜を取り上げて下さってありがとうございました。あれは、僕のデビュー作でCDを発売したら楽譜の問い合わせが殺到して、慌てて出版したものです。当時の事を懐かしく思い出しました。僕はレコーディングの時は楽譜をかかないので、後から採譜して作りました。教材用として書いた訳ではありません。僕の手は11度が楽に届いてしまうので、きっと手が小さい人にとっては、さぞかし弾きにくいと思います。でも、あの頃の作品がこうして取り上げられた事を知って、苦労したけれど作って良かったなってつくづく感じました。現在、久し振りにCDのマッチング楽譜ではない新しい楽譜集の出版準備の最中です。今後の参考にしたいので、他の作品も是非意見を聴かせてください。今後もどうぞよろしくお願い致します。とりあえず、お礼まで。

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