あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

岡利次郎編 バイエルの次に 50ピアノ・メソード 小品集  ATN

 ATNとはその昔の日音のことなのか、別会社なのかよく解らないが、日音(日音楽譜出版社)の出版物を引き継いだことだけは間違いない。この50ピアノ・メソードは相当古い本であるが、今なお店頭にあるから根強いファンがいるのであろう。練習曲編と曲集編と小品集があるが、練習曲編は対象外、曲集編の方がこれまで検討した曲と重なっている割合が多いので小品集を検討することにする。

番号 曲名 作曲者 難易度 評価
 1 光の中で エーステン   3  B
 2 小さいワルツ クログマン   4  B
 3 垣根のバラ シュメル   4  B
 4 陽気なおん鶏 クログマン   4  C
 5 春の足音 フンテン   5  C
 6 バルカローレ ライネッケ   5  D
 7 バラード コルトー   5  C
 8 靴と仔猫 ドーン   5  B
 9 きりぎりす スイフトゥ   5  D
10 北風の中で スイフトゥ   4  B
11 リゴドン ルピットゥル   4  B
12 小さな羊飼い ブートゥロン   5  B
13 サンタクロースを守る人たち クログマン   6  B
14 虹のマズルカ クログマン   6  A
15 自転車のり リヒナー   7  B
16 屋根の小鳩 フィンク   7  C
17 ワルツ フェスティバル ストリーボッグ   6  A
18 フィナーレ シュタイベルト   7  C
19 ワルツ クレメンティー   7  C
20 小さい軽騎兵 プレ   6  C
21 牧人のうた プレ   6  C
22 メロディー ルルー   6  A
23 ガボット ライネッケ   8  A
24 メヌエット デュセック   7  B
25 メヌエット ヘンデル   8  C
26 アンダンティーノ C.P.E.バッハ   7  C
27 アレグロ モーツアルト   6  B
28 2つのエコセーズ ベートーヴェン   7  C
        7  A
29 ポロネーズ エーステン   8  B
30 妖精のワルツ エーステン   7  A
31 おばあちゃまのワルツ ケーラー   7  C
32 ポロネーズ シュミット   7  D
33 子供のマーチ ランゲ   8  A
34 荒野のバラ ランゲ   9  A
35 パレードマーチ ランゲ   7  A
36 野の花に寄せて リヒナー   8  C
37 ノクターン リヒナー   8  B
38 時計 クッラク   7  B
39 五月の朝 ビーデルマン   7  A
40 パストラーレ フールマンデル   8  B
41 ジーグ フールマンデル   6  C
42 メヌエット プレイエル   7  C
43 シシリエンヌ ミュラー   7  A
44 幻想曲 ゲイロース   8  A
45 飛翔 ウィルム   7  C
46 スケルツオ フンメル   8  C
47 ソナチネ 1楽章 バンハル   5  C
        2楽章     5  B
48 ソナチネ 1楽章 シュミット   7  C
        2楽章     7  B
49 ソナチネ 岡利次郎   9  D
50 主題と変奏 アイスラー   9  C

1,2 言うまでもないことながらこれらの曲の左手のスラーは音のひとかたまりを示しているだけで、スラーの切れ目で離す必要はない。

3.2小節目のスタカートはあまり鋭く切らない方がいい。

5.解説には出だしの右手の321を同じ指でも良いとあるが、賛成できない。この曲を弾かすのなら321の練習をさせるべきだと思う。

6.この曲を美しく弾こうとすれば左手のHを非常に弱く弾かなければいけない。この段階の教材としては不適。

7.閻魔帳19の「槌音高く」。

8.教材としては長い。幼い子の発表会向き。

9.短い曲でありながら8度ポジションが優位を占める、このレヴェルの教材としては使わない方がいい。

11.リズム感のいい子だったら難易度3。

12.小さい子では最後に出てくる16分の3連が理解できないかもしれない。

13.左手のメロディを練習させたければ使える。

14.マズルカの付点のリズムは絶対に甘くなってはいけない。

16.閻魔帳19にも出てくる。指使いが相当違い、どちらのものもそれなりに理はあるが、こちらの方が少し弾きやすいような気がする。

17.Gに転調した箇所の右手二音の動機、すべて54となっているが、32がいい、どうせ離れるんだから、表情もつけやすい。

19.繰り返しはつけた方がいいような気がする。

23.良い曲ですが、リズムを感じてきちんと弾かないと何を弾いているのか分からなくおそれあり。

25.こういうのは結構弾きにくい。

28.2曲目 4小節目の異なる楽譜がある。Ais→H、左C→H(二つとも)。

30.右手の装飾音、すべて23でも良い。

33.閻魔帳47の「隊伍をくんで」。こちらの版では繰り返し記号を使用している。当然この繰り返しは省略してはならない。

34.出だしのアウフタクトをよく8分音符に間違える。またここの指は指換えをすべきかどうか迷うところだが、私は指換えをした方が音が消える確率が減って良いと思う。その場合32,or23。

35.ラスト二段の左手DFis、32とあるが42の方がいい。

37.ペダルを使ってゆっくり弾くとノクターンらしくなる。

38.手が小さいと3段目のレガートが苦しいかもしれない。

40.トリルの一番簡単な弾き方はドシドシラシ。

43.最後の右手、1と2が反対でも良い。

47.非常に易しいソナチネ。ソナチネだからといってこんな後ろの方におく必要は全くないのでは?

49.妙に弾きにくいです。

50.調号は付いてないが、b mollであろう。

総合評価         B

 副題に「バイエルの次に」とある。解説にもあるがバイエルとソナチネの間をつなぐ狙いで編まれた曲集である。

 難易度を見れば分かるように、まさにバイエルとソナチネの間に位置する曲のオンパレードである。編者の狙いは一応成功していると言えよう。そこそこ使える本ではある。

 やや珍しい曲で良い曲がちらほらと入っている。先生がレパートリーを広げたいのならば手に入れればよい、ただ生徒に買わすかどうかは微妙なところ。同じシリーズの「曲集編」の方が、当然の事ながらより有名で、より良い曲の割合が多い。このシリーズを使うのならまずそちらを買うべき。

 ただどちらかといえば古いというか、正統的先生用の本。

 つまりこの編者のいう「新しい感覚」の曲は2,3を除いてほとんどどうでもいいような曲。「新しい感覚」をつけるには日本人作曲家の手によるこのレヴェルの曲集で優れたものを使用する方がよほどよろしい(この本が出された当時はあまりなかった)。

 バイエルを終えてこのシリーズの3冊を終えて、というレッスンを受けた生徒は、その昔のバイエル、ブルグミュラー、チェルニー、ソナチネonlyのレッスンを受けた生徒よりはやや幅広い音楽に親しんでいるかもしれない、が、まあほんの少しかな、という感じですね。

 それから始めの数曲を除いて、曲の順番と難易度の間にはほとんど関係がない。

 なお編者には非常に優れた連弾用の編曲集があることを一言添えておく。

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