あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

ピアノ名曲選集 Ⅰ   共同音楽出版社 

 これは随分古くからある本です。初版は多分4,50年前じゃないかしらん。今の曲目は最初とは少し変わったようですが、それでも少なくともこの20年ほどは変わっていないはずです。全3巻ですが1を取り上げます。余談ですが「ピアノ名曲選集」という本は何種類もあります(当研究会でももう一つ取り上げてます)ので注文されるときは出版社に気をつけられて。

番号 曲名 作曲者 難易度 評価
 1 ト調のメヌエット ベートーヴェン  10  A
 2 エリーゼの為に ベートーヴェン  13  A
 3 水車 イエンゼン  13   A
 4 小さな風車 クープラン  11  A
 5 紡ぎ歌 エルメンライヒ   7  A
 6 楽しい農夫 シューマン   9  A
 7 ガボット ゴセック  11   A
 8 タランテラ Op.46-7 ヘラー  10  A
 9 あやつり人形 ローデ   7  A
10 ウォーターローの戦い アンダーソン  12  A
11 喇叭手の小夜歌 スピンドラー   7  A
12 クシコスの郵便馬車 ネッケ  14  A
13 ドナウ河の漣 イヴァノヴィッチ  16  B
14 アルプスの乙女の夢 ラビッキー  14  A
15 お人形の葬式 チャイコフスキー   9  A
16 カッコウ ダカン  13  A
17 ラルゴ ヘンデル  11  A
18 人形の夢と目覚め エステン   8  A
19 メヌエット BWV.Anh.114,115 バッハ   6  A
20 タンブリン ラモー  12  B
21 海の上で ハック   7  A
22 エコセーズ ベートーヴェン=ブゾーニ  15  A
23 さらばピアノよ ベ-トーヴェン  10  B
24 ヴェニスのゴンドラの歌 Op.30-6 メンデルスゾーン  12  A
25 オルゴール ポルディーニ  10   C
26 トロイメライ シューマン  15  A
27 幻想曲 ヘンデル  14 A(B)
28 アルプスの山小舎にて ランゲ  13  B
29 トロイカ チャイコフスキー  18  A
30 白鳥 サン・サーンス  13  B

1.中間部のアーティキュレーションは色々考えられる、これは一例と思った方がいい。余談ながら先に取り上げた「ピアノおさらい会110選」と同じ版。

2.これは「ピアノおさらい会」の版とは異なる。こちらの方が昔ながらの先生にとってはおなじみの版、「110選」のほうは指使いなどに新工夫がある。

3.名曲だろうが教材として使いにくいことは確か。相当手が大きくないと(9度は届くこと)苦しい。4ページ目3段2小節目右手G、5とあるが何かの間違い、2でしょうな。

4.繰り返し記号を使わずに記譜している版、従って半分ほど省略することは可能。16分音符についている装飾音は省いてもいいと思う(難易度11は省いた場合の数値)。もちろん原典には強弱記号は記されていない、この版のものは少しごちゃごちゃしすぎていると思う。指使いは工夫されている。

5.色々な曲集に載っているが、指使いはこの版が一番いいような気がする。

6.デュナーミクは原典と異なる。

7.この曲は以外に他に良い編曲がない、譜面ずらより難しいせいか?。右ページ4段3小節目のテヌートは音を保持するという意味ではなく、少しリテヌートするという意味に取った方がいい。

8.ヘラーのタランテラは他にもあるが、これは練習曲集Op.46のなかの一曲。あまり知られていないが良い曲です。

10.音が相当異なる版がある。おそらくこちらの方が修正版だと思うが、私としてはこの版の方が(耳なじんでいるせいもあるだろうが)いいような気がする。1ページ目2段1小節目右手指は色々あるところだが41がおそらく一番易しい、ただし初心者向きではないという考えもある、あるいはいっそのこと31から5、21から4といく。繰り返しの後3小節目の16分音符の3度の連続の最後、21とあるが、42の方がいいかもしれない。3ページ目のトリルはFisからはじめて4つずつでいい、その方が全体のスピードを損なわない。4ページ目終わりから8小節2拍目右手52から4とあるが、31から2だろう。

11.いかにも古い本だなという題名。喇叭手(らっぱしゅ)の小夜歌(セレナーデ)です。出だしの右手の指は見慣れないが案外弾きやすい。5小節目の左はすべて531でいい。

12.連弾に編曲されたほうがよく弾かれているかもしれない。ソロ版は手が大きくないとまるで無理。オクターブの練習用には良いかもしれないが、年齢が高いとこの手のものはもう卒業という感があって、割と使いにくいんでしょうね。

13.先に取り上げたクラシックピアノセレクションの版よりはずっと親切。

14.最近余り聞かないが、結構上出来のサロン音楽です。

15.人形の3部作の2曲目。これは出来れば3曲続けてやらす方がいいような気がする(チャイコのこどものためのアルバムにあります)。4段5小節2拍目左手F、AsとあるがFis、Aになっている版もある(そちらが正しいのではないかと思う)。

16.プラルトリラーを装飾音として記載しているので、近代奏法で弾いてしまう可能性あり(音楽クイズでもふれましたように、それが絶対に誤りであるとは断言できませんが)、拍頭に合わせるように。中間部でカッコウの動機をスラーにしている、そういう解釈もあるのだろうが、私は賛成しない。原典はバロックアルバムにあり。

17.この曲には似たり寄ったりの編曲が何種類もあります。ペダルは必須。

19.この版でこの曲を練習させるのはお勧めしない。最低限、短前打音になっている装飾音を長前打音に直すこと、ペダルは使用しないこと。右ページ4段目最終小節左手21とあるが、31。

20.名曲であることは間違いないが、教材としては非常に使いにくい。プロのピアニストがアンコールに使うという感じの曲ですな。

22.最後のブゾーニの付け加えた部分を省いてある版も見かけるが、これは付け加えた方がいいと思う。出だしの右手の指は色々あるところだが、この版は同音同指を避けている。それにしても5小節目は普通の手の大きさなら21から5,4になるところだろう。別に同音同指を避けなければならないとも思わないが。2ページ目6段3小節右手二つ目の音の指、逆さま。4ページ目4段6小節目左手最初の音2とあるが、おそらく1の間違い。

24.中間部の長いトリルは当然23だから、後打音は12もしくは13。最後のトリルの後のCis、3となっているが5の間違い。

25.3ページ目1段目の右手、スタカートが落ちていると思われる。

27.もちろん原典は音以外に何も記されていないのだが、この版は音自体にも相当の改変が加えられている。ここまで勝手に変えていいものかという疑問は残る。原典のままだと確かに弾きにくい箇所もあるから、一部修正する際の参考にしてもいいかという感じの版。

28.2ページ目1段1小節右手GはGisの誤り? 2段4小節目もこのままではおかしい、左3拍目のGGがAGの誤りか?

29.Graziosoになった小節、4拍目頭のHは右手で取るといい。

30.全般的にはいい編曲だが、もっと易しくて同程度の効果のある編曲が当研究会で調べただけでももすでに2種類ほどある。右ページ3小節目左右ともFはFisの間違い。ここは多分編曲者が何か勘違いしているようで、FをFisに直しただけでは、いまいちしっくりこない。

総合評価       A

 これだけAがずらりと並ぶとねえ、総合はA以外にあり得ないですがね。ただ主観的にはマイナスをつけたい気分はあります。

 つまり70年代ぐらいが原典指向のピークだったような気がしますが(私は過度の原典崇拝主義には首をひねる人間ですが)、これはそれ以前の本だけに、原典を知っている人間から見ると、時々さすがに古いんじゃないかい、といいたくなるようなものが、ちらほら混ざっているということです。

 まあ、楽譜なんてのは極論すれば古いこと自体は何ら問題ないわけで、中身がよければ100年前のものでも何でもそれでいいわけです。この本は「古いけれどもいい本」という位置づけになるのでしょう。指使いも全般的になかなか良く考えられています。

 ただこれはこの本の種本になった外国版がたまたま非常に出来のいいものだったのか、それともこの曲集を編纂した人がよほどの優れた見識を備えていて、ある信念の下にこの楽譜を選んだのかは解りませんが、結果としていい方に転んでいるということです。

 これまで検討した初級向きの併用曲集の次の段階の併用曲集として、ぴったりですが、少し難易度の幅が広く、易しいものは重なってしまうようです。難しいものはテェルニー30番程度では到底無理。

 生徒に買わせるかどうかは微妙なところ、このクラスになるとこういう併用曲集は不要であるという考えもあります。

 先生の場合は色々な曲集をすでにお持ちでしょうから、どれくらい目新しいものがあるかで決めることになるんでしょうが、ブゾーニ編のエコセーズを他の本でお持ちでなければ買いでしょう、アルプスの乙女の夢も持っていて充分役に立ちます。

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