あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

音楽会用 ピアノ独奏名曲集 初級編  小川一朗編   シンコー・ミュージック

 シンコー・ミュージックの第二段、例によって小川一朗さんである。これは私の子どもの頃からある無茶苦茶古い本である。ただし中身は相当入れ替わっている、昔のものは戦後間もない頃で著作権に配慮していない曲が入っていたような記憶がある。中級編もあるが、初級編を検討してみよう。

番号 曲名 作曲者 難易度 評価
 1 誕生日行進曲     4  B
 2 ばら シュメル   4  B
 3 スペインの踊り ベール   3  C
 4 金の星 ストリーボッグ   5  A
 5 アレキサンダー・マーチ     4  B
 6 ジングルベル アメリカ民謡   5  A
 7 森のかっこう鳥 オーストリア民謡   6  A
 8 ロマンス アウベル   5  A
 9 ラッパ手のセレナード スピンドラー   7  A
10 ロンド ケーラー   6  C
11 露のワルツ キンケル   7  A 
12 春の雲 グリンカ   6  C
13 人形の夢と目覚め エーステン   8  A
14 バラード ブルグミューラー   8  A
15 子守歌 グルリット   6  C
16 アルプスのバラ ベール   7  A
17 朝の祈り ストリーボッグ   8  C
18 チロルの歌 ケーラー   7  B
19 やさしい花 ブルグミューラー   7  A
20 隊伍をくんで ランゲ   8  A
21 ジプシーの群 ベール   8  A
22 村の踊り ベートーヴェン   9  B
23 シシリア風のワルツ ブルグミューラー   9  A
24 つむぎ歌 エルメンライヒ   7  A
25 楽しき農夫 シューマン   9  A
26 エコセーズ ベートーヴェン   7  C
27 ゆうべの鐘 クーラー   8  C
28 船歌 ハックウ   7  A
29 ウィーン行進曲 チェルニー   9  A
30 船歌「ホフマン物語」より オッフェンバック   9  A
31 夢みる人 フォスター  10  C
32 若き日の思い出 ワーレルスタイン   9  B
33 碧きドナウの流れ シュトラウス   8  B
34 アラゴンのホタ グリンカ   8  C
35 軍隊行進曲 シューベルト  10  B
36 ウォーターローの戦い アンダーソン  12  A
37 夕べの歌 ホフマン   9  C 
38 愛の歌 ホフマン   9  C
39 イタリアの船頭さんの歌 シューマン  11  C
40 ベニスのゴンドラの歌 Op.30-6 メンデルスゾーン  12  A

1.出典不明であるが、繰り返しの手前のフレージングは疑問。すなわち最後までスラーにするか、1拍目からスタカートにするかどちらかだと思う。

4.中間部最初の左手の指、5、31でもいい、次が4、21。なお註に短前打音とアルペジオが同じであるとなっているが、厳密にいえば誤り(この曲の場合は実質的にほとんど同じではあるが)。

5.2小節4拍目右手4とあるが3でいい。

6.2段4小節目右手54321とあるが、54312の方が子どもにはいい。

7.6度のレガートはこの段階では非常に困難(この指使いではそもそもレガート不可能)、全部51にしてあっさりスタカートで弾かせるのが良いのではなかろうか。2ページ5段1,5小節目の左FGHはGAHの間違いの可能性が高い。

8.トンプソン2巻に別の編曲がある、どちらがいいかは何とも言えない。2段2小節右手4拍目HはGの誤りの可能性が高い(もしくは指が誤り)。

9.この段階では多分オクターブは無理でしょう、下の音だけ弾かせる(大音量で)。右ページ3段3小節目最後の右手35とあるのはもちろん32の間違い。

10.3小節目の左手の和音、ヤマハ版(ソナチネ1)ではFisADになっている。どちらが正しいかは不明だが、仮にこちらの版の通りだとしても、下のDを省くのはおかしい、当然上を省くべき。

11.良い曲だが少々長い。発表会向き。3ページ3小節目左4から31はおかしい、5から31もしくは4から21の誤りであると思われる。5小節目左の421も弾きにくい、321がいい。3段3~4小節目右4321212とあるが4321323の方がいい。

12.最初の左は当然53が易しい。右も4からはじめて3小節目で指換えをする方が易しい。3段4小節目左手4拍目AはおそらくGの誤り。

14.8小節目の右手は421がいい。ということはその前の小節を521にしてもいい(最初から521で弾く手もあるが、学習者にお勧めかどうかは見解が分かれるだろう)。

16.2段目最初の右手は5。1ページ目最後の小節の1拍目、左手54の方がいいと思う。

20.「隊伍をくんで」という訳はいかにも古めかしい。先生でも若い方は意味が分からないのではなかろうか。「列になって」ぐらいでどうだろうか。2ページ3段1小節目右手Fに3となっているが当然その前のAのことです。
3ページ2段3小節目後半から次の小節にかけて右手12124とあるが、12313がいい。同じく4小節3拍目左21とあるが42がいい。

21.3ページ5段3小節目右手すべて51でいい。同じく4小節目右手Bの音は3でしょうね。

22.割と良い曲ではあるが、オクターブが届かないとやめたほうがいい。子どもには使いづらい。

24.4段目最初の右手の指使い、後半であらわれたときと異なる。どちらでもいいという意味なのかもしれないが、私としては最初に記されている指を勧める。

25.天下の名曲であるが、教材としてはやや使いづらい。少し大きい生徒にペダルの練習用として与えるといい。3段目最終小節右手最初の音が3となっているが、ミスプリではない、次は421で弾く(ただし3ではなく2でも構わないとは思う)。

28.ペダルはなしでも充分いける。手が小さい子には3、4小節目の右手は21から51、3段目の最後の右手を51。

31.あまりいい編曲ではない。特に4段目最初の小節の和声は誤りではないが、賛成しがたい。3小節4拍目からの左の指は、ペダルを使うとして、Gの音を手で延ばすのは諦めて、13212とする方がいいだろう。

33.2ページ3段2小節目の右連打5からとあるが、321がいい。3ページ4段5小節目最初の右手は当然4。

34.この楽譜を見る限り、ダルセーニョとセーニョは不要。(編曲の抜粋でそのまま書き写してあるという可能性が考えられる)

35.これはやはり原曲がいい。4段目最初の小節の連打の指は22を想定しているようだが、まずいだろう。八分音符を4にして以下321がいいと思う。出だしも他に何通りか考えられる。

36.8小節2,3拍目右51がいい。「戦闘」の5小節目左は421の方がいい。「英軍前進」の2小節目右543とあるが432の方がいい。「プロシア軍の前進」最初右手1214が自然。「仏軍退却」3~4小節目の指は上級者向き。初心者は3小節目3となっているGを4にする。トリル後打音DisになっているがDの楽譜もある。「歓喜」の10~11小節目、版によって音が違う。私はこの楽譜は好きではない。

40.2ページ3段2小節目左2拍目、3とあるが、よほど手が大きくない限り5。4小節2拍目、その次の小節の2拍目も同じく5。3ページ1段目から2段目にかけて、Cisを途中で諦めるのなら2段目の中声は243132、楽譜通り弾かすのなら、1段4小節めの中声がAから31212とするか43212とする。記されている指は中声のレガートを諦めている、ここは中声が一番大切なのだからよくない。

総合評価   A-

 相当古い本なのであるが、今なおこの手の名曲集の中での出来の良いものに属する。

 昔懐かしの「おさらい会用名曲」の易しいものが、相当数収録されている。この本でなければならないというわけではないが、この手の曲集を少なくとも一冊は先生は持っている必要があると思う。

 難易度に極端な隔たりがないため、生徒に買わせてそのまま併用曲集としても使用できる、入門教材を終えたあたりから。ただし現代感覚に溢れたものはない、それはまた別の曲集を与えねばならない。

 小川一朗さんは、以前検討した「ピアノ小曲集」では自作の編曲が多かったせいか、指使いも非常に行き届いていたが、この本は残念ながら指使いはちょくちょく気になるところがある。この本の場合は編曲ものはほとんどなく、少数の編曲ものも多分ご自分でなさったものではないと思われる、外国の版のそのままの引き写しであろう、そういうところが理由であろうか。

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