あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

必修 ピアノ名曲アルバム  grade A    東京音楽書院

 今回取り上げるのは東音の<ピアノ名曲アルバム>、グレードAからCまであるようである。Cあたりになると中級レヴェルになっていて、この手のアルバムを買うよりはそれぞれの作曲家の曲集を買うべきであると思う。ピアノの先生としてチェックしておく必要があるのは初級者用のもの。ということでAを検討してみます。

曲名 作曲者 難易度 評価
人形の夢と目覚め エステン  8
ティロリアンヌ ルンメル  7
歌劇「ファウスト」のワルツ グノー  7
白鳥 サンサーンス  9
南国のバラ シュトラウス  7
アンダンテカンタービレ チャイコフスキー  7
ドナウ川のさざ波 イヴァノヴィッチ  8
闘牛士の行進 ビゼー  6
ウィンナー マーチ ツェルニー  9 
波濤を越えて ローザス  5
舞踏の時間に リヒナー  6
ローエングリンの結婚行進曲 ワーグナー  8
スケーターワルツ ワルトトイフェル  8
タンブラン ラモー  8
紡ぎ歌 エルメンライヒ  7
メヌエット モーツアルト 10
メヌエット ボッケリーニ  8
トルコマーチ ベートーヴェン  8
カッコウワルツ ヨナソン  7
カール王行進曲 ウンラート  8
詩人と農夫 スッペ  9
アニトラの踊り グリーグ  8
クシコスポスト ネッケ  7
歌劇「ミニヨン」のガヴォット トーマ  7
ト調のメヌエット ベートーヴェン  9
兵士の行進 グノー  8
メヌエット BWV anh. 114 バッハ  6
メヌエット BWV anh.115 バッハ  6
ユーモレスク ドヴォルザーク  8
戴冠式行進曲 マイヤベーア 11
ジプシーロンド ハイドン 11
かっこう ダカン 13
凱旋行進曲 ヴェルディ 10
歌劇「ノルマ」の行進曲 ベルリーニ  9
コッペリアの円舞曲 ドリーブ 11
双頭の鷲の旗の下に J.F.ワーグナー 11
ウィーンの森の物語 J.シュトラウス  8
美しく青きドナウ J.シュトラウス  7
アルプスの夕映え エステン 12
ファウスト レイバッハ 10
ガヴォット ゴセック  8
エリーゼの為に ベートーヴェン 13
エコセーズ ベートーヴェン 15

○人形の夢と目覚め この曲だけ「バイエル後半程度」とある。こういうことが冒頭に書かれていると、経験のあるピアノの先生はそれだけでその本を信用するに足らないと思う可能性が高い、ということにいい加減この出版社は気づいた方がいい。

○ティロリアンヌ 3小節目最初の右手は3になるわけです。

○ファウストのワルツ 2段目最後の小節右手523が普通でしょう、次が12312。5段目最初夜右手2は多分間違い、3です、途中で1に指換え。

○白鳥 これはどう編曲しても結構弾きにくくなる曲だが(連弾は別)。

○南国のバラ 右ページ3段2小節目左31の次二つ21になっているがよくない、42から31でしょう。

○アンダンテカンタービレ 2段2小節目左手最後の音1とあるが、2がいい。次が51になる。

○ドナウ川のさざ波 最初のペダル記号の意味不明、この曲はペダルを使用すべしという指示? 編曲は割といいんだけど、これでお終いにするんですかという気持ちは残る。

○闘牛士の行進 1番かっこの16分音符、左右分割にする理由が分からない。5つ目のGから全部右でする方が多分楽だしきれいにそろう。解説に「fのあとのbrillante」とあるが、fもbrillanteもこの楽譜にはないよ。

○ウィンナー マーチ 子どもは結構喜ぶようです。

○タンブラン 左手を大分易しくした編曲。原曲は確かに子どもには使いにくい、この編曲なら使えるがしかしベースの5度がなくなってしまった。

○紡ぎ歌 指は工夫されていますが、中間部の右手FEs、私は42でもいいと思う。最後の段右手DB、31の方が小さい子はいい。

○メヌエット ディヴェルティメント№17 K.334 第3楽章の編曲です。中間部のアーティキュレーションの原典が分からないが、この通りだとするなら余りピアノ初級者向きのパッセージではない。

○トルコマーチ 評価Bでもいいんだけど。この曲はもう少し出来の言い編曲がよく弾かれているから比較しますとやはりこちらが損。3小節目の左手のアーティキュレーションは珍しいでしょうね。

○カッコウワルツ これくらい原曲で弾かせればよろしい。装飾音がほとんどなくなってしまったということはつまりあちこちで聞こえる鳥の声が全部なくなってしまったということなのよね。

○カール王の行進 原曲を知らないので定かなことは言えないが、序奏からテーマへの移行部分の和声がおかしいんじゃないの(もう1種類の編曲でもやはりおかしい。ということは原曲がそうなってるのかもしれない。仮にそうだとすれば、それを音楽的に自然に聞かそうとすれば、アゴーギグとデュナーミクの変化は必須、allargand がいいと思います)。

○クシコスポスト ここで終わりですか、という編曲。

○ト調のメヌエット 右ページ2段1小節1拍目目右手の指42とあるのは何かの間違い、2がDの上じゃなくGの上でしょうね。

○メヌエット 114 2段目の装飾音は長前打音。

○かっこう 原典はバロックアルバムにあります。このフレージングで大体いいと思うが、3ページ2小節目からの左手のカッコウの動機、私は最初と同じように弾かせたい。

○凱旋行進曲 最初のページの和音を簡略化しすぎている。

○コッペリアの円舞曲 ハ長調にしてしまうとこの曲の何とも言えぬ気品がなくなってしまう。(それが理由でBになったわけではない)

○アルプスの夕映え この段階の曲を移調する必要は全くない。むしろ有害である場合が多い。この曲も(元々そういうきらいが少しあるが)本来豪壮な大風景画のはずが風呂屋のペンキ絵に堕してしまっている。

○ファウスト 原曲を知らないので定かには言えないが(おそらく解説者も知らないのだろう。解説欄に関係ないことばかり書いてある。作曲者の生没年も空欄)この編曲では始めと終わりが照応していないという気がする。

○エコセーズ ブゾーニが付け加えた部分も含まれています。一部ドイツ語の表示があり、おそらくドイツの出版社のものをそのまま引き写していると思われる。

総合評価   C

 「ピアノ名曲アルバム」とあるから、当然曲集だと思っていたが、43曲中純粋のピアノ曲は10曲だけ、後はすべて編曲(元々のピアノ曲を易しくしたのも含めて)である。分類でどちらに入れるべきか迷うが、中身を子細に検討しない限りそこまでは分からないので、曲集の方に分類しておく。

 指使いの全く記されていない曲があったり、ドイツ語表記の曲があったり、推測するにこの本は寄せ集めの曲集である。東音が過去に出した曲集、諸外国のすでに版権の切れた曲集、の中から「ピアノ名曲アルバム」にふさわしいと思われるものを手当たり次第に引っ張ってきて並べた、そういう本であろうと思われる。

 そのこと自体は問題ではない。曲集とはつまり寄せ集めになるからである。ただ寄せ集め自体に一定の方針があってしかるべきであるし、集めたあとそれなりにフォローをする必要はあるはずである、それがないように見える。

 そもそも「ピアノ名曲アルバム」ならば本来ピアノ用に書かれた作品がメインとなってしかるべきではなかろうか。いくらでもあるはずである。そして多数を占める編曲ものもまあまあのものもあるが、ちょっと使えないなというものも結構ある(C評価はすべて編曲ものである)。

 43曲中30曲まで評価A,Bで総合Cというのはきついと思われるかもしれないが、この手の初心者用名曲集というのはいくらでもある。その中の一冊としてみればこの本は決して優れたものとは言えない。(そもそも名曲アルバムというのはすでに評価の定まった曲ばかり集めてあるはずなのである、評価Cの曲など本来含まれていてはならない)

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