あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

平吉毅州作曲  虹のリズム        カワイ出版        

 つい先年亡くなられた平吉毅州さんの曲集である。菊池のりこさんのリクエストにお応えしてこの閻魔帳に取り上げます。この本もいつの間にやら20年以上の歴史を刻んだ。なお同じ作曲者による「南の風」はこの本より難易度の幅が狭いようである(難しいのがない)。

番号 曲名 難易度 評価
 1 タンポポがとんだ  4
 2 想い出  6
 3 バレリーナの悲しみ  6
 4 錆びたブランコ  6
 5 波のお話  7
 6 ささぶねの航海  7
 7 はるかなるアフリカ  7
 8 踏まれた猫の逆襲  8
 9 ふたりだけのお話  6
10 奇妙な追っかけっこ  8
11 蛙の散歩  7
12 ひとりぼっちのワルツ 10
13 子守歌 10
14 海の伝説  9
15 あやつり人形のひとり芝居  9
16 ススキの葬列  8
17 見つけられたいたずら 10
18 潮風のサンバ  8
19 夏の夜のハバネラ 13
20 五月の風  9
21 夕映の湖 12
22 秋の光に落ち葉が舞って 13
23 はつかねずみの運動会  9
24 真夜中の火祭 12
25 チューリップのラインダンス 11

1.私の大分以前の生徒でこの曲大好きといっていた子がいました。

3.お話が作れそうな曲です。バレリーナをピアニストに変えたら良い、最後の1小節は「でも頑張るぞ」という決意。

6.2段目最初左手Aは5から4の指換え,Cを3から5の指換えにする。3段2小節目はペダルを使うのなら左手1の連続は無用、12でいい、次が53。

7.「はてしないひろがりを感じながら」弾けたらとても良い曲です。右ページ2段3小節目と同じ形が3回出てくるが左の指が違う、最初のDは1でも3でもいい、最後のDも1でも3でもいいが、全部統一するのはやめた方がいいような気がする。

8.「猫踏んじゃった」と通して弾かせると面白い、同じ速さでね。右の6度は41を使う右ページ2段目以外、すべて51でいい。特にオクターブのとどかない子に52を無理強いしないこと。最後のGは5でいい(ミスプリの可能性もある)。

9.女の子二人の愚痴の言い合い?慰め合い?

10.1小節目右32132312にして次35でもいいと思う。「追っかけっこ」というには悲しい雰囲気が漂っている。

11.和音のスタカートは鍵盤を摘むように。CisEAの和音235とあるが相当手の小さい子は125でも可でしょう。

12.その昔ある子どもに発表会用にこの曲を渡したら「この曲を練習していると暗い気持ちになる」といって拒否されたことがあります。2段目最初左手5でいい。2ページ3段目最初右手、手の小さい子は51かな。

13.中間部が美しい。どこまで楽譜に厳密に弾かせるかですが、教材としては少し使いにくいかもしれません。使う場合は生徒の手の大きさに応じて保持音をどこまで保つべきかをあらかじめ考慮することが望ましい。

14.名曲でしょうね、特に男の子は大好きなようです。手塚治虫に「海のトリトン」という漫画があります。私時々この曲を弾く子どもに読ませてました。右ページ1段3小節目私は4152、5小節目頭のG、2番かっこのG、どちらも私は5にします。

15.1段目と2段目の16分音符はどちらも2段目の指でもいいと思う(1段目が23523となるわけ)。2ページ目1段2小節目AsFは手が大きくない限り15。4段2小節目左手私は141にします。終わりから3小節目左手Bは2の方がいいと思う。

16.1ページ半にわたる息の長いクレッシェンドが要求されます。ラヴェルのボレロを思い出すのは私だけかな。

17.ペダルを使えないと魅力半減。右ページ2段目最後の右手は123でとりたい、とすると3段目最初が4になりその後は記譜通りにするか3232323、3小節目から記譜通りもしくは231とする。

18.メロディーのスタカート、中声部のスタカート、左手のスタカートに微妙な差異があるような気がします。中声部が一番軽くて短い、左手はウッドベースを指ではじくイメージかな、メロディーは余り短いとまずいでしょう。

19.子どもに弾かせるのはもったいないような名曲、あなたご自身ががぜひレパートリーにして下さい。2ページ1段2小節目、そして3ぺ-じ3段目最後の和音の絶妙さ。なお指使いはほとんどプロ用というか完全に大人向きです。子でもではあちこち無理があるでしょう。とりあえず3段4小節目左手Esは5、2ページ2段左手は全部51、3ページ目の例の絶妙な和音右手521(次も)。

20.速すぎないように。評価Bでもいいんだけどなあ、何となくCがほとんどないなということで、この曲がCになっちゃいましたね(他の曲に比べて魅力の伝わる速度が遅い・・何回か弾かないと良さが解らない)。

21.この曲だけ指使いがあまり記されていない。右はともかく左は何通りか考えられます。

22.4段4小節目左手Des、次の小節のB、2でもいい。2ページ目5段1小節目上声34とあるが43の方が首尾一貫している。

24.余り速く弾きはじめると、16分音符のところで破綻を来す。

25.子どもにこの曲を聴かせてやると、これまでのところ100パーセント「弾きたい」と言います。「貴婦人の乗馬」の上を行く名曲だと思う。

総合評価   A

 以前からこの本にはお世話になってましたが、こうして調べ直してみて改めて素晴らしい曲集だと思います。日本人の手による初心者向け作品集(あえて子供向けとはいわない)の金字塔といえるのではないでしょうか。

 前に調べたやはり素晴らしい作品集である湯山昭の「こどもの国」との違いは、「こどもの国」の方は作者が子どもに近寄っている、こちらはどちらかといえば子どもを引き寄せようとしているとでも言うのでしょうか、難易度を考えて技法上の妥協はしても、芸術上の妥協はしないというような姿勢が見えるような気がします。

 逆に言えば難易度は同じでも「こどもの国」の諸作品に比べ、表現に深いものが要求されます。きちんと仕上げた場合には得るものは非常に大きいと思われます。19,22などはプロがレパートリーにしてアンコールピースにしてもおかしくないような曲です。

 指使いは作者が言っているように「正しい指使いの一例」ですが(ごく一部異論あり)、どうみても大人用です。オクターブが届かない生徒の場合には修正する必要があります、これが最大の欠点かな。

 こういう曲集でレッスンしてもらえる今の子どもたちがうらやましい。

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