あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

バロックアルバム1 36の小品集  長岡敏夫編      音楽之友社

 これは35年ほど前からある楽譜である、未だに店頭に出ているということは類書が数多く出回っている現在も売れ続けているということであろう。編者の長岡氏は「ピアノの学習」などを著されている方である。

番号 曲名 作曲者 難易度 評価
 1  メヌエット クリーガー  5 
 2 ガヴォット グラウプナー  6
 3 メヌエット ラモー  5
 4 ブレー ヘンデル  6
 5 フーガ パッヘルベル  7
 6 ジク テレマン  6
 7 アリア ラートゲーバー  7 
 8 メヌエット マッテゾン  7
 9 ジク ニヘルマン  7
10 バレー キンダ-マン  8
11 パヴァヌ バード  9
12 シャコンヌ フィッシャー  9
13 ホーンパイプ パーセル  9
14 フーガ ブロウ  9
15 コレンテ フレスコバルディ 10
16 シチリアーノ パーセル  8
17 コケット ムッファト 10
18 ファンファーレ キルンベルガー  9
19 F.バッハ  9
20 ためいき ダンドリュー 10
21 プレリュード パーセル 11
22 上きげん ラモー 11
23 小さな風車 クープラン 11
24 リゴードン ベーム 12
25 ソナタ 2楽章 パラディエス 14
26 エール ムッファト 13
27 ヒスキア王の病とその回復 クーナウ 12
28 リゴードン ラモー 13
29 ガヴォット マルティーニ 14
30 クーラント レイエ 13
31 ジガ ガルッピ 14
32 ソナタ ヘンデル 13
33 かっこう ダカン 13
34 ジク リュリ 13
35 幻想曲 テレマン 14
36 ソナタ L.430 スカルラッティ 17

1.名曲でしょう。ギターで弾いてもいい感じです。当時はリュートで弾かれていたのかもしれない、というのは私の勝手な推測。

2.右手のフレージングは註に書いてあるとおりでなくても良いと思う(8分音符を全部つなげる)。

3.左手はノンレガートでも良いと思う。右手も必ずしも註の通りでなくてもいい。

6.フレージングは色々と考えられる。

7.4~11小節、右手3つ目の八分音符の後で切れ目を感じてもいい(後半も類似の箇所あり)。

9.二番かっこの最初の小節も左手で中声部をとる。

10.この曲だけから判断すれば8分音符をレガートで弾いて充分音楽的になると思うが。ただ「バレー」という舞曲がいかなるものであるのか詳しくは知らないので何とも言えない、軽やかな舞曲であるならば註にあるようにスタカートの方がいいということになる。

11.16世紀の曲だけに微妙に近代和声と異なっている。原譜の装飾音をつけると今のピアノではかえって魅力が失われると思う。

15.チェンバロで弾くといい感じになりそうな気がする。

19.3小節目左Aが2になっている、悪い指ではないが子どもには難しい、1が自然。右ページ冒頭の装飾音はテンポにもよるが省いても良いと思う。2段目右手最後からの8分音符のフレーズ、全部揃えるのか、スラーのないところは切るのか迷うところ、私はずっと揃えて最後の二つだけ切る。

20.装飾音が命。

21.右ページ4段3小節2拍目右手1とあるが3から1への指換え。

22.3段目のモルデントは32321でも32121でもいい。右ページ3段2小節目左Eから134とある、次の2を考えてのことだろうが、どうせ離すんだから123でいい。同段4小節目左13とありFisが2から1の指換えとなっているが、そんなややこしいことをせずとも、はじめ12でFisを1でとればよい。次の小節のHも2から1のほうが楽。

25.註にあるフレージングと速さを両立させるのは難しい。4小節目右手Aに4となっているのは当然次のGisの間違い。

26.この曲を本当にレガートで弾くにはペダルが不可欠だが、教材とした場合どうするかは微妙なところ。

27.「指使いは学習者において考えること」とあるがちゃんと記されている(やや少な目だが、そもそもこの曲のアレグロ部分は基本音型ばかりで余り妙な指になる可能性は少ない)。というところから推測できることは、外国の何かの版の丸写しなんでしょうね、ぱっと見て指番号が余り見あたらなかったので親切そうに註を入れたというところか、この編者が指を考えているのではないということだけは明白。

28.私は良い曲だと思うのですが、余り弾かれていないようです。右ページ2段目最初の右手の装飾音、原譜ではその段の最後の形と同じ、実音で記すのは良いが、なぜ変えたのか理解に苦しむ。ここだけ16分音符でチャカチャカ弾いたら何か妙だと思いませんか、当然8分音符で弾くべき。最後から2小節目Gis、2となっているが当然3でしょ。

29.1小節目の左を51という工夫した指で弾かせるのなら2小節目もそうすべきです。3段目最後の小節左1拍目5の指にするとつながらない、4がいい(このGは前のFとつながっている。次のHとつなげる必要はない)。

31.速くなると結構弾きにくい曲です。3段2小節目最初の右手2でもいい。4段目の左は色々考えられるが、私は最初の小節7拍目から543212、次を431としたい。

32.3ページ目3段3小節目右手Gis、4段2小節目Cis、原典にはトリルあり。

33.2ページ目6段4小節目右手最初23でもいい、とすると以下3小節Cisを3、Aisを1、Hを2でとることになる。

36.最後に難しいのが入ってます(あまりゆっくりだと面白くない)。アーティキュレーションに悩みますが、少なくとも3つに分けて考えるべき、3段目2小節目からの音型、2ページ目フェルマータの後の音型、その他の三つ。

総合評価  A-

 一言で、良書です。

 この本以降、類書が相当数出回っていますが、同工異曲というべきか微妙に改善されている点もありますが、まあ大差はない。プレ・インヴェンションという形で今なお使用できる本です(バッハの易しいものという手もありますが、私は、バロックといえばバッハしか知らないとなるよりは、バッハ以外の作曲家に親しむことの出来るこちらの方をお薦めします)。

 先生は必ず「はじめに」を読むこと(生徒にも読ませた方がいいが、小学生以下ではまず無理)。巻末の解説ももちろんだがその10倍くらい重要。

 27,28あたりで少々馬脚をあらわしているのが残念。

 小さい子には少し楽譜が小さいかもしれない。最近の類書はそこらへんを改めているようである。

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