ピアノ教材研究 作品集
様式とテクニックが同時に学べるピアノのための バロック名曲集 上 中村菊子編 全音
大分以前に下巻を取り上げています。今回上巻を取り上げて、これでよく使われているバロックの初心者用曲集は大体揃ったと思います。
番号 | 曲名 | 作曲者 | 難易度 | 評価 |
1 | メヌエット BWV Anh.114 | バッハ | 6 | A |
2 | メヌエット | バッハ | 6 | A |
3 | メヌエット Anh.132 | バッハ | 9 | A |
4 | メヌエット Anh.116 | バッハ | 7 | A |
5 | メヌエット Anh.120 | バッハ | 7 | B |
6 | メヌエット Anh.121 | バッハ | 7 | B |
7 | ベーム氏によるメヌエット | バッハ | 7 | C |
8 | ミュゼット Anh.126 | バッハ | 6 | A |
9 | ポロネーズ Anh.119 | バッハ | 8 | A |
10 | マーチ Anh.127 | バッハ | 10 | C |
11 | ガヴォット BWV808 | バッハ | 12 | A |
12 | 小プレリュード BWV927 | バッハ | 11 | A |
13 | 小プレリュード BWV999 | バッハ | 10 | A |
14 | プレリュード BWV846-1 | バッハ | 12 | A |
15 | 小プレリュード BWV939 | バッハ | 9 | A |
16 | アレグロ W116ー54 | E.バッハ | 8 | A |
17 | マーチ BWV Anh.122 | E.バッハ | 9 | A |
18 | ファンタジア W117-12 | E.バッハ | 11 | B |
19 | アレグロ W116-56 | E.バッハ | 10 | C |
20 | メヌエット イ長調 W116-1 | E.バッハ | 9 | C |
21 | メヌエット 変ロ長調 W116-1 | E.バッハ | 8 | C |
22 | メヌエットとトリオ | F.バッハ | 9 | C |
23 | アレグロ | F.バッハ | 7 | B |
24 | ソナタ | F.バッハ | 12 | C |
25 | メヌエット | ヘンデル | 6 | B |
26 | ガヴォット | ヘンデル | 9 | B |
27 | メヌエット | ヘンデル | 8 | A |
28 | インパーティネンス | ヘンデル | 8 | A |
29 | パスピエ | ヘンデル | 8 | C |
30 | ソナチネ | ヘンデル | 9 | C |
31 | ソナタ L.358(K.95) | スカルラッティ | 12 | C |
32 | ソナタ L.97(K.440) | スカルラッティ | 11 | B |
33 | ソナタ L.423(K.32) | スカルラッティ | 8 | B |
34 | ソナタ L.95(K.323) | スカルラッティ | 10 | B |
35 | ロンドによるメヌエット | ラモ | 5 | B |
36 | メヌエット | ラモ | 7 | A |
37 | よろこび | ラモ | 11 | A |
38 | タンブラン | ラモ | 12 | B |
39 | かっこう | ダカン | 13 | A |
40 | プレスト | テレマン | 7 | B |
41 | ファンタジア | テレマン | 9 | C |
42 | アレグロ | テレマン | 8 | B |
43 | アレグロ | テレマン | 9 | C |
1.最もオーソドックスなフレージングかもしれない。なお作曲者が別人であることはすでに明らかになっているが、本の通りにしておく。
3.フレージングにやや疑問は残る。特に前半と後半のカデンツ部分の不揃いは気になる。
4.これもオーソドックスなフレージング。
5.左のトリルは5音もしくは4音でも良いだろう、6音は相当難しくなる。
6.半音階の目立つ曲。あまり使われないか。
8.手の小さい生徒はこのフレージングが良い。
10.他の併用曲集では見たことがない。
11.イギリス組曲3番のガヴォット。かなり安直なフレージング。
14.平均律1巻1番のプレリュード。このデュナーミクはちょっとひどいと思う。
15.あまり速く弾き始めないように。
16.フレージングに統一感がない。
18.短い。速さ次第。
19.手が小さいと6度の連続が困難。
22.4段2小節目左手に指換えがあるが困難だろう。その音の直後もしくは手前で、切って良いと思う。
23.ブルレスカとなっている本もある。
25.組曲8番のガヴォットに少し似ている。
26.註にあるトリルの奏法は困難。16分音符8個で良い。やや安直なフレージング。
27.このフレージングも安直に過ぎると思う。
31.交差の練習という感じ。
32.5段目最後左の指使いからはレガートに弾けという推測が成り立つが、レガートの必要はない。
33.スカルラッティのソナタの中では最も易しい部類に属する。
34.4曲の中では最もスカルラッティらしいかな。
35.これはよく見かける曲。繰り返しは付ける。
36.最後の左に指換えが頻発しているが、いずれもノンレガートでよい。
38.名曲ではあるが、教材としては使いにくい・・前にも書いたと思う。
39.5小節目からの右手の指は色々あるところ。4ページ目4段目の右手トリル、註の通りは困難だろう、6個で良い。
40.註のaとcはさすがに遅すぎるだろう。16分の速さで弾いて、最後の音をしばし延ばすのが良いと思う。
総合評価 B
教師次第かな、と思われる本。独習には不向き。バロック音楽についての知識のあまりない教師についてもとんでもないことになる危険有り。
何が危険かと言えば、書き込みが多すぎるのである、特にデュナーミク。予備知識無しにこの楽譜の通り演奏すると、バロックとはおそらく似ても似つかぬものになってしまう。
ここに書かれている強弱記号はすべて控えめに、そしてcrescやdimはことごとくニュアンスを表す、程度のものとして受けとめなければならない。ロマン派のような大げさな表情を付けたのではぶち壊しになる。「様式とテクニックが同時に学べる」という看板は少なくとも様式に関しては、誤りを学んでしまうことになりかねない。
ということをきちんとわきまえている先生ならば、充分使用できる。いっぱい書き込まれているデュナーミクも、非音楽的であるというわけではない、一つの方向性を示す程度に受けとめれば有用な指示となろう。
ただ平均律1番のプレリュードだけはちょっと堪忍して欲しいなあ、この楽譜の演奏を聴くとバッハは喜ぶかもしれませんけどね、それはなかなか珍しく面白いものを聴いたという喜びでしょうな。