あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

セヴラック ピアノ作品集 久保春代・舘野泉編集   音楽之友社

 魔女リンゴさんのリクエストにより「セヴラック ピアノ作品集」を取り上げます。セヴラックは1872年に生まれたフランスの作曲家。一時忘れ去られていたが、近年復活しつつあるよう。作品は大半がピアノ曲。この本で紹介されているものは比較的易しい作品である。

曲名 難易度 評価
休暇の日々から 第1集    
   シューマンへの祈り  12  A
 Ⅰ お祖母様が撫でてくれる  14  B
 Ⅱ ちいさなお隣さんたちが訪ねてくる  14  C
 Ⅲ 教会のスイス人に扮装したトト  13  B
 Ⅳ ミミは公爵夫人の扮装をする  15  A
 Ⅴ 公園でのロンド  14  B
 Ⅵ 古いオルゴールが聴こえるとき  14  B
 Ⅶ ロマンティックなワルツ  16  A
休暇の日々から 第2集    
 Ⅰ ショパンの泉  22  A
 Ⅱ 鳩たちの水盤  17  A
 Ⅲ 二人の騎兵  17  B
ポンパドゥール夫人へのスタンス  18  A

○シューマンへの祈り 美しい、ただ華やかなものではないので、よく見ないと気づかないという感はある。この曲に番号がなく次の曲から1,2と順になっているのはよく分からない。

Ⅱ 原本にはちょっと信じられない指使いがある、校訂者が変更しているものが妥当だろう。

Ⅲ 近代の香りがほんの少しするというところか。

Ⅳ 優雅に。83小節2拍目左、過去3回と音が異なる、ミスプリかどうか不明。

Ⅴ 20小節2拍目裏Hの下に書いてある1は、その手前のFisを2から1に指換えするという意味であろう。

Ⅵ 題名どおり。

Ⅶ 何というか、田舎っぽいというのじゃないが、都会的ではないなという印象があります。やや分厚い感じというか、軽妙さには欠けています。しかしなかなか良いワルツです。

Ⅰ あまりショパンらしさは感じられない。

Ⅱ 未完の作品。ここにあるものは後世の補筆だが、何とも言えない美しさがある。

Ⅲ これも補筆されたもの。譜面面よりは弾きにくい。

○ポンパドゥール夫人へのスタンス 私はこの本の中で一番好きです。ただそれでも、この曲が音楽史上に生き残る曲であるかどうかについては若干の疑問が残ります。

総合評価  B

 AかBか、少しじゃない、大いに迷いました(実は最初Aとしました)。

 独特の魅力ある佳品が並んでいます。にもかかわらず最終的になぜBにしたのかは、セヴラックが、生前ドビュッシーと並び称される程有名であったにもかかわらず、世界的にはもちろん、本国フランスですらほとんど忘れ去られたのはなぜか、という理由を私なりに考えてみたからです。

 彼は「田舎の作曲家」と自称したそうです。それは卑下でも何でもなく気取った都会人に対しての反発からくるものであったのでしょうが、世間的にもそう言われたということは、彼の音楽には良い意味でも悪い意味でもある種の「田舎っぽさ」があったことは確かでしょう。

 年代的にはドビュッシー、ラヴェルとほぼ同じ。しかし彼らのような新しい時代を切り開いた革新的語法はありません、書法は完全にロマン派のそれです。

 ドビュッシー・ラヴェルは世界中で認められました。フォーレはたとえばドイツでは一級の作曲家だとはみなされていない、その微妙な洗練された感覚は、ドイツ人には分からないようなのです。しかしフランス人には分かる、そしてそれを理解しないドイツ人を「野暮な奴」と腹の中で軽蔑する。セヴラックはしかし、「野暮な」作曲家でした。その美しさ、上品さは当時の人々に広く愛されたとはいえ、その音楽の本質にフランス人の愛してやまない「粋な都会的センス」というものが、おそらくなかったということでしょう。

 私の個人的見解ですが、ドイツ音楽は音の意味を追求しようとする、しかしフランス音楽は音の感覚を追求します。人種的差異としか言いようがないものですが、フランス人は根本的に快楽というものに敏感で、音楽においてもそれがおそらく最優先される。そしてその音の響き・感覚の追求という点において、フランス人の要求をついにセヴラックは一時的にしか満たすことが出来なかった。新しい響きを編み出したわけでもなく、「パリジャン」の愛好する洗練された、あるいは洒落た響き(たとえばフォーレ、サティ)を生み出すこともなかった。「田舎の作曲家」という言葉は、他人が使った場合、決して誉め言葉だけとは言えなかったと思います。

 近年セヴラックは復活しつつありますが、それはスクリアビンが復活したほどの大々的なものにはならないでしょう。あくまで傍流というかマイナーな作曲家としての復権にとどまると私には思われます。

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