あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

プレ・インベンション J.S.バッハ・インベンション の前に  日下部憲夫編  全音

 魔女リンゴさんのリクエストにより<プレ・インベンション>を取り上げます。編者は「ポリフォニー音楽の初期段階の教材は、この曲集が出版されて~選曲が解決された」と大見得を切っていますが、さていかに。非常によく売れている本ではあるようです。

番号 曲名 作曲者 難易度 評価
 1 小フーガ1番 ローリー   5  A
 2 小フーガ2番 ローリー   5  B
 3 小フーガ3番 ローリー   6  C
 4 小フーガ4番  ローリー   5  B
 5 小フーガ5番 ローリー   6  B
 6 小さなカノン Op.14-82 クンツ   6  C
 7 小さなカノン Op.14-92 クンツ   7  C
 8 小さなカノン Op.14-106 クンツ   5  B
 9 小さなカノン Op.14-126 クンツ   5  B
10 小さなカノン Op.14-52 クンツ    6  C
11 スケルツィーノ テレマン   6  C
12 アレグレット テレマン   6  B
13 ジグ テレマン   6  A
14 アレグロ テレマン   6  B
15 リゴドン テレマン   6  B
16 ポロネーズ Anh.119 バッハ   8  A
17 メヌエット  Anh.114 バッハ   6  A
18 メヌエット  Anh.115 バッハ   6  A
19 メヌエット  Anh.120 バッハ   7  B
20 メヌエット  Anh.116 バッハ   7  A
21 シュヴェービッシュ J.C.F.バッハ   4  C
22 アングレーズ J.C.F.バッハ   7  C
23 アレグロ E.バッハ   8  A
24 ブルレスカ F.バッハ   7  B
25 ブレ F.バッハ  13  A
26 F.バッハ   9  A
27 アングレーズ L.モーツアルト   7  A
28 ブレ L.モーツアルト   6  A
29 アントレ L.モーツアルト   5  A
30 メヌエット モーツアルト   5  B
31 アレグロ モーツアルト   6  B
32 カンツォネッタ ネーフェ   5  C
33 スケルツァンド ネーフェ   6  C
34 スケルツオ ミュラー   4  C
35 メヌエット クリーガー   5  A
36 アリエッタ トュルク   4  B
37 ガヴォット ヴィットハウハー   5  B
38 マーチ クラーク   5  A
39 スケルツァンド スカルラッティ   6  A
40 メヌエット ラモー   5  B
41 メヌエット ベーム   7  C
42 メヌエット ロカテルリ   8  B
43 バレエ キルンベルガー   7  B
44 バレエ キンダーマン   8  A
45 フーガ パッヘルベル   7  C
46 古いドイツの踊り 作曲者不詳   8  A
47 ロンド 作曲者不詳   8  B
48 カプリッチョ ヘスラー   9  A
49 サラバンド コレルリ   8  A
50 フィナーレ フールマンデル   9  C
51 主題と変奏 ハッセ  13  B
52 インパーティネンス ヘンデル   8  A
53 ブレ ヘンデル   8  B
54 プレリュード ヘンデル  10   C
55 サラバンド ヘンデル  12  A
56 主題と変奏 ハイドン  14  B

2.9小節目の左手の指が11とならざるを得ない、というところが、最初期のポリフォニー教材としてはわずかな傷と言えよう。その分だけ1番に劣るということでB。

1~5の中では結局1番が最もいい出来だと思う。

6.ポジションの移動はないが弾きにくい。

7.これもポジションの移動はないが、アーティキュレーションが左右ずれているので困難。

6~10のクンツのものは、複音楽の最初の練習用としては著名なもの。音楽的にはさほど魅力のあるものとは思えない。ただ極めて短く、構造も分かりやすいので、知的な子供は面白いと思う可能性はある。

14.最後の右手のフレーズのA、1となっているが4で良い。

19.後半の左手のトリルは6つが困難であれば主音からの5つでも良いと思う。

23.出だしをこの本のようにスタカートにするか、つなげるかは迷うところ。後半の出だしも当然揃える。

25.ピアノのステージ2,にもあった。私はこちらのフレージングの方が好きです。

27.この本にもあるんですねえ。先頃注釈を書いた一覧表難易度7-39です。あっさりすっきりしたフレージング、この解釈も悪くない。

28.これは一覧表難易度6-9ですな。最後の左は余り短すぎないように。

29.これは一覧表5-31.ピアノの学校では無題でしたので、私が速度標語の「アレグレット」としましたが「アントレ」が正しいのでしょうかね。

32~33.ベートーヴェンの先生の曲だよ、と言ってやれば興味を持つ子はいるかもしれないが(この年齢ではいないかな)、曲自体はどうということない。

35.6小節目と14小節目の右手のフレージングは、私は揃えた方がいいと思う。手の小さい子には初めの二つを切るという手も考えられる。

36.5小節目右手最初5になっているが4の方がいいと思う。

37.デュナーミクがどうでしょうね。この解釈では1段目と2段目が対照、しかし3段目と4段目はもっと細かいフレーズが対照になっている。私なら3段目全体としてf、4段目全体としてp、その中でこの本にあるような微妙な強弱を付けます。

38.これは一覧表5-40.最初の右手の指はちょっと気になる。312とくるんなら次は4でしょうねえ。2小節目のAも4でしょうねえ。

39.最初の繰り返しは私は付けたい。細かいことだが、左手の最初の音型についているスタカートは、心持ち長めがいいと思う。

40.まあ、実際的なフレージングですが、右手は余りレガートを強調するとよくない。

41.2~3小節目の右手のフレーズの指は小さい子には不可。2413とするか3532として装飾音を12とするか。

44.繰り返しの後最初の小節の左手、Cが3-5,Eが2となっているが、これは先にEを弾いてからCの指換えをする場合の指使い。Cの指換えを素早くすましてそれからEを弾くのであれば、Eは3になる。

45.以前難易度6にしてましたが、変更しておきます。

46.すっきりはしているが、どれもこれもスタカートで統一したという感がある、やや安直な気はする。時間があるときにフレージングを生徒とゆっくり考え直しても良いかもしれない。

47.余り手が小さいと苦しい。

51.第3変奏、お終いから2小節目1拍目後半右手32とあるが42。

52.この編者には珍しくスラーばかりのフレージング。これもまたやや安直な気がする。

53.出だしの左、non legatoなんだからこんなややこしい指をする必要はない。343でよろしい。

56.私はこの曲を発表会で2度使ったことがあるが、2度とも本人には不評であった。一回などは「先生、来年はもっとええ曲にしてや」と言われた。非常に美しい曲なのだが、簡素というか単純な美しさだけに、よほど小さいか大人にならないと分からないのかもしれない。出だしの右手ターン、私は3から4321とします。

総合評価     A

 その昔、ドレミ楽譜から「ピアノ小曲集」というのが全3巻で出ていた。私見では入門用教本が終わった後の、最も優れた併用曲集であったが、いつの間にかなくなってしまった。

 後継らしき本も見つからないままに、年月が過ぎていったが、この「プレ・インベンション」がある意味で後継本と言えるのかもしれない。出版社は異なるが、編者は同じ日下部さんだからである。(正確に言えば、この本の方が確かに少し新しいが、両方平行で発売されていた時期があるから後継本とは言えないのだが) 

 もっともこの本は「ピアノ小曲集」とは異なり対位法楽曲のみを集めているから(最後のハイドンなど、そういえるのかどうか怪しいものも結構入っているが)、兄弟本というところであろうか。

 原則としてバロック、それに+クンツやローリーの教育的対位法楽曲まで集めてある。一部を除いて難易度はほぼブルグミュラーと重なる。同じく優れた曲集である「バロックアルバム」よりは平均して少し易しい、「バロック小品集」とは難易度は似ているが、それより良い曲が多く集められている。

 「選曲が解決された」というのは少しオーバーな気もするが、先生にとっては有り難い本であることに間違いない。

 入門用教本を終えた後、バッハを特別扱いせずに対位法音楽を広く学ばせたいと考える先生にとっては最右翼となる曲集である。

 バッハを別格に扱いたい先生にはその手の曲集がある。あるいはこの手の音楽はもう少し後、ブルグミュラー中程からでいいとお考えの先生には、「バロックアルバム」の方が向いている。

 フレ-ジングは、おおむね問題ないが、全般にややスタカートを偏愛気味な気がする。一部少々安直ではなかろうかと思われるものもある、記しておいた。

 少しだけ気になるのは、「プレ・インベンション」というより「プレ・プレ・インベンション」という感じがする。つまり難易度を見てもおわかりのように、インベンションの前という段階の曲はごく少ないのである。その意味では「バロックアルバム」の方がその題名にふさわしい。まあ、ほとんど揚げ足取りですね。

 最後に個別の学習順(すなわち難易度)が記されている。私のものと微妙に食い違う。一つ思うのはこの編者は、対位法の難しさには敏感であるが、それ以外の難しさ(たとえばポジションの移動は初心者にとっては結構難しいことである)、には余り意を払っていないという感はする。自省して当方の偏りも述べておくと、以前付けた難易度に少し縛られている、という気はする。いずれ修正せねばなるまい。

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