あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 作品集 

 

古典派をひこう 武田宏子編  音楽之友社

 私の閻魔帳が最初に取り上げるのは、武田子さん(といっても存じ上げているわけではない)の<古典派をひこう>である。最初は使い慣れた教材でいこうかとも思ったが、最初からそういうイージーな姿勢ではよくないと思い、楽譜屋で新たにランダムに仕入れてきた結果がこの本である。(最初はやはり「音楽之友社」でいこうとは思っていた。何といってもこの業界の老舗であるから。)さて、それでは先に結果から。

   

  曲名 作曲家 難易度 推薦
 1 メヌエット モーツアルト   5
 2 メヌエット 同上   6 
 3 メヌエット L.モーツアルト   6
 4 ヴァルトホルン・シュテュック 同上   7
 5 アレグロ モーツアルト   6 
 6 メヌエット 同上   7
 7  アレグロ 同上   9
 8 メヌエット 同上   6
 9 ロンド 同上   9
10 ドイツ舞曲 同上   6
11 メヌエット 同上   7
12 ドイツ舞曲 ハイドン   4
13 アレグレット 同上   5
14 メヌエット 同上   5
15 メヌエット 同上   7
16 スケルツオ 同上   7
17 アレグロ 同上   9
18 アンダンティーノ 同上   8
19 メヌエット ディアベリ   6
20 アレグレット 同上   5
21 メヌエット デュセック   6
22 遊びすぎて テュルク   7
23 子どものバレー 同上   5
24 練習しましょう 同上   6
25 快活に 同上   6
26 6つの変奏曲 クーラウ   9
27 ワルツ クレメンティ   6
28 ワルツ 同上   8
29 ワルツ 同上   9
30  ワルツ 同上   7
31 民謡 ベートーヴェン   4
32 ドイツ舞曲 同上   5
33 エコセーズ 同上   6
34 ドイツ舞曲 同上   5
35 エコセーズ 同上   7
36 ワルツ 同上   9
37 メヌエット 同上  10
38 6つのやさしい変奏曲 同上  13

1、指 3段目1小節目右手最終音から次の小節の初めの音、23とする方がいいと思う。

2、指 右手4段目2小節目最終音から23132132でもいい。

3、4段目トリル5個はこのレヴェルでは苦しい。3個で良いのでは。

4、指 1小節3拍目左は3以外なら何でもいい。3段目のトリルの指使いは首をひねる。

5、指 2小節目左手2とあるが3であろう。4小節目のBDが53になるのを嫌っているのだろうが、32243(or32343)で問題ない。
2段目と5段目の16分音符のフレージングが違うのは原典に従っているのだが、2段目で統一する方がいいと思う。

6、指 2小節3拍目左の3は2でもいい。5小節1拍目左の2は1でもいい(次も同じ)。3段目4小節3拍目左の4は3の方がいいと思う。最後の小節の左、私は521だと思う。
2小節3拍目右のスタカティッシモは単なるスタカートで充分であろう(ここだけどうしてつけたのか意味不明)。

7、指 5小節目私なら34231423でいく、つぎの小節が1234になる。(p12の4段目に揃えたのだと思うが、そちらの方は私なら34231314)。p12、2段目2小節右手3拍目のD私なら5(最後から3小節目も同じ)。5段4拍目のH、4の方がいい。
p11,5段目の左の32分音符は、その前の32部休符を削除して3つを16部の三連符で弾くべしという説を何かで読んだことあり。

8、6小節目右手最初のDは原典ではC、しかし多分そちらが書き損ないか何か。原典至上主義者の多い昨今では大英断? だが5段目1小節最初のAはいくら何でもやりすぎなのでは、もちろん原典はかっこのなかのC。最終小節の1拍目左手のオクターブ下のGも省 いているが、一応残しておくべきでは? 他のやり方も考えられるのだから。
三段4小節目右と左は原典では同じ長前打音、なぜ変えたのか理解に苦しむ。左手の形で統一すべきだろう。 

9、指 右手は色々考えられる。守らなければならないのは繰り返しの前の4だけ。繰り返しの後の小節3拍目左、1でもいい。

10、最初の指使いは色々考えられる。p17、3段、2,4小節目右手32は不可、21で す。4段め最初から2421となる。4段、2小節目左手私は513を採る。

☆34の間を広げるのは原則として避けるべき。特に初心者では厳禁。(ロシアのピアノの先生の中にはプロでも避けよという人もいる)音がすかすかになるか、手が硬直するか。 

11、指 4段最後の左手2,次が3のほうが自然。
3小節目の奏法の註の調号は臨時記号と間違えかねない。5,7小節の右手の初めの二つの音は原典ではスタカティッシモとスラーに分けてある。9小節のスラーは原典に  ない。3つずつのスラーの方がいいような気がする。最後も同じ。

☆ この手の曲集にはモーツアルトの幼い頃の作品がよく取り上げられる。1つか2つ「モーツアルトは5歳の頃にこんなのを作ったのよ」てな感じで生徒に渡すのも良いだろうが、全体としてそれほど有り難がる作品群とは思えない。
いかに天才モーツアルトといえど子どもの作品である。たとえばソナタのk279やk280は10番を除いたこの本の曲に比べて遙かに完成度は高い。しかしたいていの先生がそれらのソナタよりもk330やk332を使うであろう。もう一つ上の作品だからだ。k1やk2を使うべきだというならk279,k280はもっと使うべきだということになる。天才の比較的劣る作品よりは並の作曲家の最も優れた作品の方が優れている、そう考えるのがバランスの取れた考え方というものである。             

12、指 2小節目右手Fis私なら2。最後の左手、私は42。

13、指 2段2小節目右手35の方がいいと思う。

14、指 最後から3小節目左手G、私なら3、次の音が2。
原典が分からないので何ともいえないが、2段目と4段目のはじめ、右手のスラーは1拍目まででもいいように思う。 

15、最初の繰り返しはつけた方がいい。2段目と4段目のトリル、私は上の音から弾く方がいいと思う。

17、指 2段2~3小節目の右手はミスプリか? ちょっと奇妙すぎる、当然1231252。 左手3段3小節目最後の音から2333と私なら。4段4小節目左、413でも良いと思う。p25、3段3小節目右手最後の音は3、次が1。

18、指 3小節目左2拍目、私は21。次が52(42)。

19、指 p29、4段2小節目右1拍目、私は5。

20、指 最初の左手は色々ある(特に2小節目の頭)。

21、指 2小節目右手HCD345でも可、次が42、2段目の頭も42になる。7小節目右手AH23で構わない。5,6小節左手の最初、いずれも5で可。(編者の指は中級程度以上向き)二度目も同様。
p32、最初の右手53は54、42は53、次の小節は425142、次は53と私ならする。2段目、右手最初1で問題ない。3段2小節目右345はどうも弾きにくい。445もしくは334の方がいいだろう。

22、指 3段3小節目から左手241313(24)54の方がいいと思う。
5段3小節目右手最後の音からのスラー、Fisまでの方が首尾一貫している。(左も同じ)

25、指 2段2小節目右手D45とあるが55でも可。

26、指 Var.1、1小節目左432、私なら422。3~4小節目は色々あるだろうが、一番分かりやすいのは222。Var.5、7小節目右手Disを3にして最後のHを1にする。

27、指 2小節目右手の11は解せない(この編者は同音同指を嫌っている節が他の曲からは伺える)、2拍目は2であろう。

28、指 5,6段目の右手153の運びはリズム感を出すための特殊な運指。しかしこのレヴェルでは難しい。つまりは教材として不適ということ。

29、指 p46、2段3小節目右手最初を3にして、次の小節を25とする。3段目も同じ。
p47、右手終わりから2つ目42は手の大きい子、普通は41。

☆交差して手が斜めになった場合、1は出来れば避けること。

31、指 3段2小節目左手、Aを5にして次が3でもいいだろう。

32、指 4段目の右手は色々ある。

33、指 3段2小節目右手が1段目の同じ箇所と異なる。24でも13でもいいと思うがこの書き方はまずいのでは。3段6小節目のBは当然4のはず。

34、指 2小節目右手3でもいい(ただし次の小節のAで3)。2段目同じ。
p54、2段4小節目左の指は相当手の大きい子。普通なら521と531。
この曲はさる教本に前半だけで載っている。それも良いかもしれない。

35、4小節目1拍目の裏、右手H、左手HDとなっている教本がある(左は二つとも)。
4段2小節目左最後の音、下のHを省いたらいい。

36、指 3小節目右手F3はピアニストならではの指、初学者は4の方が分かりやすい。その前2小節目の頭はここでは4だが再現では3になっている(3の方がよりピアニスティック、ただし初学者ほど抵抗が大きい)。

37、指 5小節目左手H、4の方がいいだろう。
ベートーヴェンの名曲、子どもも好きな曲だがそもそもピアノ用には書かれていないため、教材としては使いにくい。トリオの部分はさまさまな解釈が可能、フレージングによって指使いも当然変わる。この本のフレージングは初めて見る。こういう解釈もあるだろうが、一つだけ首をひねるのは、6段2~3小節目の右手、いかにもとってつけたよう。

38、そもそもこの本の趣旨からはずれる曲。ソナチネの後じゃないと無理だろ。
指 Var.1 5小節3拍目左手53。Var.2 1小節目左手最後の音に5を書いてないのは不親切(もしくは次の音を2にするか)。Var.4 9小節3拍目左手C4でいいと思う。 Var.5 9小節目右手24から25の連続はいただけない。3拍目で14にすべき var.6 2小節目右手最後の音、オクターヴがとどく子なら3の方がいい。

☆同音同指を嫌う先生は多いが、同音同指を避けなければならないのは速いパッセージである。テンポの遅い場面では指が硬直しないことにさえ気をつければ、むしろその方がいい場合がある。(10年以上前のムジカノーヴァで外人のピアノの先生が同じことを言ってました。)モーツアルト、トルコ行進曲のDurの部分、左手全部1で弾くと易しいですよ(故ゼルキン他1名外国ピアニストの運指)。

総合評価   C            

 お堅い作品の好きな先生向き、とでも言うべきか。
よく見かける曲が6割くらい、やや珍しい曲も結構収録されているが、残念なことにそれらはほとんど教材として魅力はない。
一番気になるのは編者の目が隅々まで行き届いているとは言い難いこと。たとえば10番のドイツ舞曲の指使いは24年前に出たドレミ出版のピアノ小曲集1のものと寸分違わず同じである、これはやはり偶然の一致とは考えにくい。
個人的には、バイエル・チェルニー方式で育つ日本の子ども達は、只でさえ古典派に偏りやすいのであるから、この手の本は無用であると思うが、バイエルもチェルニーも使わない私のような先生に就いているのなら、一冊ぐらい持たせても良いかもしれない。
なお64ページで1400円は少し高いんじゃないかい? 著作権など全部切れてるはずだし。

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