あるピアニストの一生

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いきなり弾けるぞ 大人のためのピアノ教室 初級編 原礼彦編 清原賢治監修 サーベル社

 「いきなり弾けるぞ」などというのはとんでもないネーミングだなと思ったが、「はじめに」を読むと、昔少し習ったことがある大人も対象、であるらしい。何となくインチキだなと思うが、まあネーミングにまでけちを付けるのはやめておきましょう。もう一つよく解らないのは、「まえがき」を読む限り、後輩である清原さんが大先輩の原さんの編曲の監修をしているらしい。普通は逆だと思うのだが。まあ、これも要らぬ勘ぐりでしょうな。

 最初に楽典の説明。5ぺーじ、付点4分音符の説明で八分音符が1/4となっている。もちろん1/2の間違い。

「基本の基本」に書かれている説明が少しおかしい。③で指をやや高めに上げてと書いてあるにもかかわらず④では指の重みで音を出すと書いてある。指の重みで音を出すには指は上げない方がいい、置いてある指を押すのである。

曲名 作曲者 難易度 評価
どこまでも行こう ソロ1 小林亜星   3  B
           ソロ2       3  C
           伴奏     3  B 
河は呼んでる   ソロ ベアール   2  A
           伴奏     2  A
エデンの東 ソロ ローズンマン   4  C
        伴奏     4  C
愛のコンチェルト ソロ リンツァー&ランデル   4  A 
           伴奏     3  A

○どこまでも行こう ソロ1 最初がこの曲だが、13のクロスが左にある。いくら何でも最初の曲からクロスがあるというのはねえ・・クロスなしでも編曲できるはずですがねえ。

○同上 ソロ2 属7の和音を途中で入れ替えているが、私はDが重なることより、CとHの短9度の濁りの方がはるかに気になる。

○同上 伴奏 これが一番いいが、ソロ2の伴奏と矛盾している。つまり前記の私の指示を結果的に守っているような形になっている(2カ所を統一していないのが少し気になるが)。だったら前の楽譜もそうしなさいよ。

☆楽典についての記載があるが sfzをスフォルツァンドと記している。間違いではないのだが、通常スフォルツァンドはsfと記されるのはピアノ教師ならどなたもご存じのはず。そしてsfとfzは別の記号です。この本の記載は誤解を招きやすいだろう。

○河は呼んでる 格別優れた編曲と言うよりは、この程度の曲だと一応の音楽的素養のある人間なら、誰が編曲してもこうなる、という意味の評価A。

○エデンの東 5小節目の左手は伴奏型としては、滅多に使わない、特に初心者にはまずい(コード進行の解説に合わせるために無理をしちゃったのよね・・しかし本末転倒)。

○同上 伴奏 音が重なりすぎていて弾きにくい・・これも最終節になって修正してある、初めからそうしろと言うの。

○愛のコンチェルト これも格別優れた編曲というわけではない。

☆コードについて と言う説明がある。

曲名 作曲者 難易度 評価
ユー・アー・マイ・サンシャイン ソロ デイヴィス&ミッチェル   3  A
                  伴奏     2  A
ラブ・ミー・テンダー ソロ マットソン   5  B
             伴奏     5  A
I Love You  尾崎豊   4  C
ラ・クカラチャ ソロ メキシコ民謡    4  A
         伴奏     2  A
愛の夢 リスト   5  C

○ユーアーマイサンシャイン これも最も当たり前の編曲。3小節目右手321とあるが、当然323。

○ラブミーテンダー 最後の段、右手和音421から531とあるが、431から521への誤りの可能性あり。

○I Love You これは弾き語り用の楽譜であるが、もちろん難易度は単にピアノ部分を弾くだけの難易度である。2ページ目4,6小節目のB7の和音はまずい。Disを重ねてはいけない、どちらかのDisをHに変えること。

☆続いて音階の説明があるが、短音階の3種類、順番が自然、旋律、和声となっている。少し気になる。

○ラ・クカラチャ 編曲に問題はないが、後半の右手の連打、1ですべて弾かせるのは少し気になる。

☆ペダルを使いこなそう というコーナーがあるが、踏み換えのタイミングがおそらくこの本を読む初心者には不明であろう。小節線の真下に「踏み変える」となっているからである。正確に言えばコードの変化した、最初の音を弾くと同時に踏み変えるのである。

曲名 作曲者 難易度 評価
「新世界」より第二楽章 ドヴォルザーク   5  C
白い恋人たち レイ   6  C
「白鳥の湖」より情景 チャイコフスキー   5  C
駅馬車 アメリカ民謡   5  B
アンチェインド・メロディー ノース   5  D
イエスタデイ レノン&マッカートニー   7  C
ベサメ・ムーチョ ベラスケス   8  B

○新世界 ペダルの導入としては不適切な教材、3小節目がこの本の説明どおり踏めば必ず濁る。和音も少々首をひねるものが使ってある。

○白い恋人たち 左右が重なり合うために濁る。右手を1オクターヴ上げるとずいぶんましになる。中間部3小節目、コード記号からすれば左手CはEの誤り。次のFは何とも言えないがAのミスプリの可能性はある。最後から2小節目は手が3本ない限り演奏不可能、アルペジオにするのか、少しずらすのか、いずれにせよ説明がいるはず。

○白鳥の湖 中間部を除いてペダルはむしろ使わない方がいい。この音域のアルベルティバスは濁る。3小節目コード記号がFとなっているが間違い、Dm、右手も考慮に入れるのならDm7。

○駅馬車 ここから後の曲はペダルの練習とは必ずしも言えない。最初の左の指は少し首をひねる、6小節目からはいくら何でもおかしいと思う。と、最後から4小節目では同じ形で別の指になっている、この本はどうもこういうことが多い。

○アンチェインドメロディ 初心者はペダルを付けない方がいい。先の説明どおり踏んだのでは話にならない。平行5度が目に付く。ポピュラーとはいえ、やはりまずいと思う。

○イエスタデイ これはペダルを付けたいが、前もって先生が詳細に付けて上げるべきだろう。独習ではかなり苦しい。

○ベサメムーチョ 左手を相当弱く弾かないとうるさい。

総合評価     C-

 まず分類に少し困った。本の名前からは「教本」かなと思われるのだが、中身は編曲集と言うべきでしょうね。教本ならDなんですがね、到底使えるとは思えないから。ただ編曲集としてみればそこまで酷評することもないかな、半分近く使えるしな、ということでCにしておきます。

 まあしかし、こういう本もあるんですねえ、というのが正直な感想。

 教本の体裁を取っていて、一応の説明はあるのだが、教本というものはどういう順序でピアノのテクニックというものを仕込んでいくかということについての考慮が、必ずなされているはずなのだが、どうもそういうことを考えた形跡が見あたらない。何となく易しそうな曲から難しそうな曲へ、単にそれだけ、という感じ、で教本としては当然失格。

 まあ、サラリーマン諸子がそれこそ一念発起して、しかし先生に就くのは何となく恥ずかしく、一人でピアノをやってみようと思って、楽譜やさんでこの本を見つけて買う、というのが一番ありそうなパターン。 

 90パーセント以上の確率で挫折するでしょうな。

 もう一つ、著者(編曲者)がいて監修者までいるにもかかわらず、あちこち間違いが見受けられる。私が正味数時間で上記の誤りを発見することが出来る、いったいこの監修者は仕事をしたのだろうか、それとも監修前はもうお話にならないくらいひどい出来映えで、ここまでミスを減らしたということなのだろうか? 

 先生が購入することはちょっと考えられない。

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