あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 教本 

 

スオミ・ピアノ・スクール 2

       著者 リトヴァ・レヒテラ/アニヤ・サーリ/エーヴァ・サルマント-ネウヴォネン

              監修 館野泉  訳・編 坂井百合子 久保春代          ヤマハ

スオミの第二巻です。「耳でよく聴くこと」「豊かな音楽表現」を学ぶとある。曲は1巻までとは異なり編者のもの はなくなり、既成の作品がバロックから現代まで及ぶ。マスコットが猫からになった。

曲名 作曲者 難易度 推薦
子守歌 メリカント Op.31-2  5  
むかで ヴェスマン    
エコセーズ ベートーヴェン  5  
練習曲 ベルティーニ  5  
カッコーの森で ヒルン  5  
メラルティン  6
前奏曲 フィッシャー  6  
目ざまし時計 ドロップナー  6  
メヌエット ラモー  7
練習曲 セイフェルト  6  
鉛の兵隊 カバレフスキー  6  
オルゴール グルリット  5  
道化師 有馬礼子  5  
薄明り 鳥 小品 メリレイネン  7  
岸辺で デーリング  7
悲しみ hadjiew  6
ヴェスマン  6  
メヌエット 作者不詳  7  
練習曲 ケーラー  7  
三段とび ブルナム  7  
コンピューターゲーム ブルナム  8  
メヌエット スカルラッティ  8  
ガボット ヘンデル  8  
山の小人のおどり シュッテ  8  
変奏練習曲 ケーラー  8  
半音階的練習曲 ツェルニー  9  
二人だけのお話 平吉毅洲  7
ミッリのおそうしき ハンニカイネン  8  
からかいの歌 バルトーク  6  
3つの舞曲(連弾) ベートーヴェン  5  
主題と6つの変奏曲 クーラウ  9  
木馬 アレクサンダー  7  
エコセーズ シューベルト  6  
ワルツ シューベルト  8  
象のブギ サルマント  7  
ブルース(連弾) サイバー  8
犬の夢 トゥオメラ  9  
ポロネーズ モーツアルト  8  
ワルツ ブラームス  9  
ソナチネ グルリット  8  
ポルカ グリンカ  6
ぼだいじゅの下で シュッテ  7
ゼンマイ仕掛けの人形 ショスタコーヴィッチ  8
おかしなロンド スティーブンス  8
魔女 メラルティン  9  
スケルツィーノ ジルヒャー  9  
小さなワルツ Op.40-1 シベリウス  9
エチュードアレグロ 中田喜直 13

○子守歌 準推薦。美しく。3度の練習でもある。

○むかで 演奏者の恣意にゆだねられる部分のある現代曲で難易度がつけられない。面白いといえば面白いが、まあ お遊びです。

○エコセーズ ドイツ舞曲として他の本にも出てくる。手が小さいとやや不利。なお予備練習があるがポリリズムで 少し難しい。

○練習曲 指の縮小の練習。

○カッコーの森で トンプソンで言う「ダウンアンドロール」の練習。古典派的。

○朝 これもカッコーの動機がある。トリルの練習でもある。

○前奏曲 フィッシャーはバッハに先立って「平均律による前奏曲とフーガ」を記したことで名高いが(19の調性で作った)、 これがそのハ長調のプレリュードであるのかどうかは手元に資料がないので不明。分散和音の最後の指は252だろう。

○目ざまし時計 ホ長調。手が小さいとやや苦しい。

★ピアノ演奏のためのトレーニング としてなかなか興味深いことが記されている。脱力とレガート、特にレガートは 非常に面白く有益だが、こういう身体感覚がわかる年齢というのは少なくとも10歳以上ではないかと思われる。 あと、速い演奏の項の連打は、アップライトでは困難かもしれない。

○メヌエット 1728年の新クラヴサン曲集の第二メヌエットの装飾音を省いたもの。良い曲だが 教本・曲集で見かけるのは初めて。

○練習曲 付点のリズムの練習。

○鉛の兵隊 同じく付点の練習。演奏そのものは易しいが、ヘ短調ということでの読符の難しさで6。

○オルゴール 8分の3拍子における付点8分音符のリズムの練習でしょうね。符が読めれば易しい。

○道化師 こういうのを選ぶところが、何というか渋いというか、子供に迎合しないという一つのこれはスタンスでしょうなあ。

★音程についての説明あり。完全、長、短、増、減。

○薄明り・鳥・小品 3曲ワンセットかどうかは不明。ごく短いが別々の作品とも考えられる。完全な現代ものです。 メトロノーム表示と変拍子、アラ・ブレーヴェが初めて出てくる。

○岸辺で アルベルティ・バスの練習かな。なかなか工夫された曲だが。

○悲しみ 作者名はハジエフと思うが、あやしいのでそのまま表記しておきます。5拍子の佳曲。ペダルはなしでもいける。

○市 現代物。バルトークに「大市」という曲があるが、そちらの方が私は良いと思う。

○メヌエット モルデント、プラルトリラー(トリルとある)、ターンの奏法の説明がある。プラルトリラーは 上部隣接音からの4音。最も簡単なのは主音からの3音であるが最近、その奏法の指示を見かけたことがない。音楽学者が 何か言っているのだろうか。とりあえずこの曲は、おそらく相当古い曲。

○練習曲 曲としてはチェルニーよりも陳腐であるケーラーの練習曲。ただ練習曲としては左右を平等に扱っていて より優れているかもしれない。難易度は速さによってまるで変わる。

○三段とび これも純然たる練習曲。跳躍と和音の練習でしょうか。コードネームが出てきます。

○コンピューターゲーム これも上と同じ。より素早さが要求される。

○メヌエット スカルラッティの面白さはあまり出ていない。このレベルでは無理か。

○ガボット これはバロックらしい格調の高さがある。準推薦。

○山の小人のおどり この本にしては珍しく子供の好みというものを考慮に入れたような曲ではある。

○変奏練習曲 第二変奏以降は最初の音形だけ示していて、残りは生徒が考えるようになっている。

○半音階的練習曲 8小節の練習曲の8番。久しぶりにチェルニーを弾くと、練習曲としてはたとえばケーラーのものより はるかに音楽として様になっていることが良く解る。いまだに世界各地で使われている理由であろう。

○二人だけのお話 難易度を7に修正しておきます。

○ミッリのおそうしき 感情をこめてゆっくり弾くことを学ぶのに良い。

○からかいの歌 単純で基本的に易しいが、アーティキュレーションを丁寧にしておかないと引っ掛かる。

○3つの舞曲 ベートーヴェンにこんな連弾曲ありましたかね、何かの編曲だと思います。secondの難易度は6。

○主題と6つの変奏曲 変奏2の6小節目の左の指が2小節目と異なる、印刷ミスの可能性もある。

○木馬 やや現代風。描写音楽。

★自由な伴奏と即興演奏、として4ページ割かれている。相当優秀な子供ならば可能か。

○エコセーズ D529-3だが、ウイーン原典版と微妙に異なる。繰り返した方が良い。

○ワルツ Op.9-16。エコセーズといいワルツといい、よりによってあまり面白くないものを選んでいるという気はする。

○象のブギ 割と単純。

○ブルース 八分音符をスイングするのかどうか、記されていない、記譜法を見ると付点を使っている箇所もあり スイングしない可能性もあるが、音楽としてはスイングする方がはるかに自然。secondの難易度は7。

○犬の夢 その昔前衛音楽の雄シュトゥックハウゼンが断片だけを示して、演奏順を奏者に任せた、そのやり方を まねしている。いわゆる偶然性の音楽。子供は興味をもつだろう、私も若い頃は面白いと思った、最近は何かばかばかしいと思うが。

○ポロネーズ 原曲不明。子供のころの作品だろうか。

○ワルツ Op.39-3。ブラームス自身の編曲はもう少し難しい。やや大人向き。

○ソナチネ 1楽章は落ち着いた佳曲。2楽章は3部形式の活発な曲だが、私には微妙に中間部が唐突な気がする。

○ポルカ 久しぶりに見かける。3段目以外易しい。

○ぼだいじゅの下で E-Cと転調するが、Cの部分にさりげばくeがある。遅くなりすぎないように(流れるように)

○ゼンマイ仕掛けの人形 Op.69-6。全音版に指使いその他を補ったような楽譜。

○おかしなロンド 現代物にしては譜読みは楽。

○魔女 昔ながらのいわゆるちょっと怖い「魔女」。最近の子供たちは「魔女の宅急便」を思い出すのではなかろうか。 表現の教材としては良いと思う。ただ私は個人的にそれほど好きではないので準推薦にしておきます。

○スケルツィーノ やや近代的。題名どおり面白く弾くこと。

○小さなワルツ ペダル必須。この教本には珍しい大人っぽい曲。シベリウスは書法的にはロマン派、微妙に近代 の香りもある。

○エチュードアレグロ これまでの曲を相当余裕を持って仕上げていない限り、さすがにてこずるだろうと思われる。 指が速く回れば何とかなる。

 

総合評価   B+

一言で言えば「王道を行く」教本ですね。

現代において「ピアノを学ぶ」ということを真剣に考察し、こどもたちにその最新の成果を伝えようとしたもの。と言えようか。ドイツ系教本のような堅苦しさはなく、アメリカ系教本のような遊び的要素もなく、私はある種の感銘を受け、 Aにしようかどうかさっきまで迷っていた。

最終的にAにしなかった理由は二つ。

一つは、つまり王道を行くあまり、子供に対しての良い意味での迎合すらほとんど放棄してしまっていること。これは特に選曲について言える。教材としてのよしあしでほとんど決められており、「子供が喜ぶ」という観点からなされた曲はほんのわずかしかないと思われる、という点。

もう一つはフィンランドの事情とわが国との違い。つまり手が小さいとやや苦しい、もう一つ大きなことは、クラシック音楽が日常に浸透し、幼いころから耳になじんでいる子供たちには、この本の即興やら創作やらが可能であろうが、日本の子供たちにはおそらく相当優秀な子供たち以外、苦しいであろうということ。

ということでAにはしなかったのだが、会員の皆様にはお勧めします。特に親が熱心であると思われる生徒、親がインテリ層である生徒などにいいであろう。使い方はこれを主教材にして、もう一冊必ず子供の喜ぶ副教材をつける。この巻ならブルグミュラーが最適。即興などは、子供の様子を見てパスすることもあり。

ロマン派、というか感情表現を表す曲の割合が他の教本より少ない印象がある。それゆえ一層ブルグの併用が適している。

どの教本でもそうだが、特にこれを使う場合は先生は必ず予習をし、その曲について最大限の共感を持って指導できるように( 練習曲ならばその練習の意図を正しく生徒に伝えられるように)しておかなければならない。漫然と指導していたのでは 効果が半減すると思われる。

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