あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 教本 

 

湯山昭ピアノメソード <ピアノの宇宙 3 星たちのパラフレーズ>  全音楽譜出版社

日本人の手によるピアノメソードはこれまでにも色々とあったが、昔のものは自作ではなく色々なものからの 寄せ集めでほとんどがバイエルの焼き直しという感じであった。近年オリジナルのものが輩出しているがその草分けとなったのが 湯山さんの「こどもの宇宙」であろう。「ピアノの宇宙は」その改良版というか、やや年齢の高い層を対象に編集し直されたものである。 全3巻、リクエストの関係で3巻から検討する。

この巻は音楽史的に編集されていて、古い作品(を模したもの)から現代、そして諸民族、日本の音楽(を模したもの) までという順になっている。これはこの巻だけの特徴である。

○序章「中世からルネサンス」として、その時代の音楽についての説明がある。

第1章 バロックから古典派音楽へ
番号 曲名 難易度 推薦
 1 メヌエット  9
 2 ガヴォット 11  
 3 ポロネーズ 10  
 4 コラール  9
 5 マドリガル ~星が流れる~ 10  
 6 小プレリュードとフゲッタ 10  
 7 小さいインベンション 10  
 8 サラバンド 13
 9 ジーグ 14  
10 カノン ~<えんそく>のテーマ~ 12  
11 アルベルティおじさん  9  
12 カデンツとスケールのためのエチュード 10  
13 1楽章のソナチネ 10  
14 風のロンド  9  
15 おひるねするアルベルティ 10  
16 ひとりぼっちのモーツアルト 12  
17 エリーゼからの手紙 12  

○まずバロック時代についての説明がある。

1.いい曲ですけど、絶対バロックを思わせる曲じゃないな。なおこのメロディーは湯山さんお好きなようで、 合唱曲「星の旋律」の「星のメヌエット」にも使われている。

2.フレージングを考える必要がある。アウフタクトはスタカート、1拍目の2音はスラーが基本スタイルかなと思う。

ここで各舞曲についての説明が入る。

3.連弾 secondは11。一部分primoが伴奏に回る。

「教会音楽とポリフォニー」についての説明、そして4番~10番までの説明が入る。

4.とても美しいが、これもロマン派の響きです。

5.もちろんペダル必須。

6.これはあまり湯山さんの匂いはしない。

7.この時代の原典を模して、音以外に何も記していないものと、湯山さん自身の校訂版? とを記してある。面白い試み。 校訂版のほうが装飾音があり難易度が一つ上がる。

8.サラバンドの形を借りたロマンの香り漂う曲。

9.これもあまり湯山さんの匂いはしない。でだしD.Sのあとは543。やや難しい。

10.「カノン」を理解させるにはいい。

○古典派の特徴と形式、の説明があり、11~15の解説がある。

11.イ長調。簡潔にまとまっている。

12.結構長い。発表会で使えるか?

13.古典派を模すということで技法を制限しているせいもあるが、「日曜日のソナチネ」の各曲の方がずっといい。

14.初期ロマン派という感じにはなっている。まとまっていて準推薦。

15.11~のすべてについて言えることだが、やや中途半端かしらん。

16と17について(モーツアルトとベートーヴェン)の説明が少しある。

16.左手のポジションが頻繁に変わり、見た目よりは弾きにくい。

17.準推薦。パロディなのかまじめに創ったのか良く判らないが、こういうのは絶対に原曲を超えることはない。

ロマン派からフランス近代へ
番号 曲名 難易度 推薦
18 小鹿のポルカ  8
19 ポニーのギャロップ  9  
20 イルカのマズルカ 13  
21 ワルツ ブリランテ 10  
22 バルカロール(舟歌)  7
23 インテルメッツォ(間奏曲)~光る秋~  8
24 ノクターン(夜想曲) 10  
25 冬のエチュード 10  
26 炎のアパッショナート 11  
27 幻想曲 ~スワンの夢~  9  
28 クレープ・シュゼット 11  
29 エンゼルフィッシュ 11
30 つばめのコンダクター 10  

○18世紀~19世紀の舞曲として18~21番の説明がある。

18.多分ここらへんから湯山さんの本領発揮と思っていた。自然に創られていて、かわいい。

19.6~7小節目の形、左手をつながないように。

20.目まぐるしく転調する。私はちょっとついていけない。

21.ワルツは湯山さんお得意。

○ロマンの香り として22~27番の説明がある。

22.美しい。

23.半終止で終わっている。たっぷりとritすること。

24.ペダル必須。

25.ブルグミュラーの「バラード」をちょっと思い出す。

26.相当速く。

27.美しいがもう少し発展させて欲しかった感はある。繰り返しはつけること。

○豊かな色彩・フランスのエスプリ として28~31番の解説がある。

28.繰り返しの部分からの移行(出だしへにせよ、次の部分へにせよ)がやや唐突な気がする。

29.微妙な色彩感があり精妙に作られている。

30.前2曲よりやや単純か。

未来へ歩みだす音楽
番号 曲名 難易度 推薦
31 無窮動のカプリス  8  
32 不思議なワルツ 10
33 白と黒のシーソー 10  
34 奇妙なアレグロ 11  
35 象の子ダンボ  9  
36 マンモスのワルツ 10  
37 マンモスのカノン 12  
38 憂鬱な日  8  
39 アレグロ・ジェット・コースター 10  
40 中国の母なる大地 11  
41 ソフィアの踊り子 13
42 日本の祭り 11  
43 田舎の夕暮れ 11  
44 だれもいない午後  8  
45 風っこ 寒太郎 11  
46 ガジュマル森のキジムナー 12  
47 すぎていく夏の日(連弾)
48 宇宙の太鼓(連弾) 10  
  ピアノは歌う(連弾) 10  

○20世紀から21世紀へ 現代音楽入門 として31~37番の解説がある。

31.面白いが、手が小さいと難易度が1~2上がる。

32.5拍子の美しい曲で、現代、というほどではない。

33.ペダルは指定どおり(少し濁る)にすべき。面白い。

34.最後にクラスターがある。好きな子はいるだろう。

35.何というか、断片という感じ。

36.これだけクラスターが多いと、ちょっとこちらは萎える。まあ、こどもは面白がる可能性はある。

37.12音ではないが(11音)音列を使用し、無調。36と同じ主題でトーンクラスターも出るが、こちらはずっとまとも。

地球は歌う 世界の音楽 として説明がある。

38.ブルースを模しているが、本物のブルースよりクラシックっぽい。

39.これは解りやすい。準推薦。ジャズ的と説明にあるがそうは思えない。

40.元は中国の民謡のようだが、つなぎなどが完全に西洋音楽になっていて、あまり中国風には感じられない。

41.ブルガリアのリズム。8分の3+4+2という混合拍子。一気に弾く。

新しい日本の響き として結構な数の曲が入っている。

42.短いが面白い。繰り返しはいる。準推薦。

43.オクターブの練習になる。

44.やや日本的かな、というくらい。属和音で終わる。

45.題名は有名な歌を思い出させるが、中身は全然違う。

46.微妙に沖縄音階が混ざっていて弾きにくい。

47.secondは難易度11。second主導でしみじみと弾く。

48.最後だけ難しい。secondも同じ。

○最後にこの教本のテーマソングの連弾がある。secondは難易度12。

総合評価   B

曲集としてB、教本としてなら-がつきます。

ただしこれは3巻だけの評価で1巻がどうなるかはまだ全く判りません。

教本としての評価が低いというのは、つまりインベンションならバッハのものの方がはるかに価値があるし、古典派ならクレメンティやクーラウのソナチネの方がずっとよろしい、ということです。

結局、これはすべて湯山昭作品なんですよね。バロックといい古典派といってもあくまで摸しているに過ぎない。本物ではない。そして本物の方が模造品より価値があるのはいうまでもない。

入門段階においてなら一人の作曲家で押し通すことも可能でしょう。しかしこの3巻は初級の終わりから中級の始めあたりです、その段階において、一人の作曲家の作品しか学ばないということは、恐ろしく栄養が偏ってしまうことになります。他と併用すればいいではないかということになりますが、それにしてはこの本は結構なボリュームがあって、おそらく作者の狙いとしてはこの本1冊で済ませられるということなんでしょう。

普通教本は入門段階で終わりです。中級程度まである教本で優れたものといえば、たとえばトンプソンは入門段階ではほとんど自作の曲ですが、この本とほぼ同難易度の3~4巻では自作の曲はほとんどありません。ピアノランドも最終巻で初級の終わりまで行きますが、曲数は少なく、著者自らが併用すべき曲集を挙げています。

少なくともレベル7、8あたりからはいろいろな作曲家の作品に触れるべきなのはやはり当然のことであって、少なくともこの巻を教本として使用することは、私はお勧めできません。

曲集としてみた場合は使えます。作者が述べているように、「無味乾燥な音楽を避ける」ことは確かに達成されています。一曲一曲が楽曲としての水準に達してますから。古典派を模したものが、ややぎこちない印象があります。作者の資質に最も遠い世界なのでしょう。バロックも遠いと思うのですが、ここは居直っていて、ほとんどバロック的なにおいはありません。ロマン派以降が作者の資質そのままを反映した世界と言えるでしょうか。

ただそれにしても、「教本」ということで湯山さん自らが制限を課しており、ある種の自由度というか湯山さんっぽさが少なくなっているのは、制限のせいなのか、作風自体が昔と変わりつつあるのか、そこは判らない。曲集としては湯山さんファンは必携、普通の先生にとっては「お菓子の世界」「こどもの国」「日曜日のソナチネ」あたりの次という感じはします。

湯山さんはこの本に25年の歳月をかけたとおっしゃてます。そう思われた時代は確かにピアノ教本といえばバイエルとメトードローズくらいで、その後もブルグミュラー以外にはチェルニーがほとんど、という時代でした。しかし今、そういうものに飽き足らないピアノの先生にとっては無数とも言える教材が紹介されており、当会でもいろいろと推薦しております。多くの人々の手によって、すでに「無味乾燥な曲が並ぶピアノのお稽古」の時代は終わってしまっているのです。

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