あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 教本 

 

セイモアのピアノの本 音楽的感情に合わせた体の動き――初心者のために

                   セイモア・バーンスタイン著  大木裕子/青木礼子共訳  東京音楽社

今回はちょっとユニークな本を取り上げてみます。いかにしてよい音質、それを作り出すタッチを身につけるかということ についての身体の動きについての考察を小さい子どもにも解るように書かれた本です。

1.あなたとピアノとエンピツと

消しゴムつきのエンピツで、ピアノの鍵盤をゆっくりと押すことから始まる。最低限の読譜がすでに出来ている必要がある。 (中央のドをはさんで両方1オクターブくらい)

2.B.T.を使って鍵盤の3つのポジションを見つけること

エンピツにB.T.(beautiful tone)の略という名前をつける。キーの表面と、キーの底とアフタータッチの 場所を見つける。これはグランドピアノじゃないとできない。

3.宇宙からのささやき

アフタータッチまで押すことでppを出すことを教えている。

4.大きな地球の音

今度はエンピツを少し上から一気に落とすことでfを出すことを教えている。

5.地球から宇宙へ、そして再び地球へ

6種類のダイナミクス、そしてエンピツが二本になって両手奏になる。

6.聖堂のドーム

エンピツを使って、指の形を整える。写真の4は少し直線的過ぎる(不自然に力が入っている)ような気がする。

7.パンケーキと聖堂のドーム

指の腹のことを「パンケーキ」と名づけて、そこで鍵盤を弾く。

8.伸ばして曲げて

黒鍵を弾く時は少し指を伸ばす、白鍵を弾く時は少し指を曲げる、ことを学ぶ。

9.バネのきいた弾力のある指

片手の指でもう片方の指を押さえ、指のバネを確かめる。指は伸ばしていた方がバネが良く利く。

10.かぎをかけられたビティとB.T.

エンピツを使って第1、第2関節の部分を支える、次いで1指で第1関節を支えて弾く。

11.新しい発見―U字型

指の形の最終的なおさらい。ここら辺からまともな曲が入っている。難易度4くらい、評価はC。

12.上腕の動かし方としなやかな手首

上腕の動きを意識させて、手首の動きにつながっていることを理解させている。上腕の動きを意識させる というのは珍しいかもしれない。

13.準備(整える)、スウィング、ぷれー(投げる)、フォロースルー

ピアノを弾くという行為を四つの段階に分けて考察している。とても解りやすいが、この方法は入門者が一音一音 きちんと音を出す場合に適用できるが、レガートには不向きだし、速い音符には適用できない。

14.上腕ロールを使って音を出す

13の実践練習。

総合評価   A-

これは教本というよりは、先生と生徒のためのタッチについての考察の本とでも言うべきもの。

解りやすく、具体的に、写真を使い、丁寧に説明してある。最初にゴムつきのエンピツを使うというのが面白いアイデア。ピアノ教師歴30年を越えている私にも実は新しい発見が一つあった。まだまだですねえ。

残念なのは、ポルタメント、もしくはノンレガートの奏法の説明だけで終わってしまっているということ。当然続刊が必要であるが、アメリカ本国はともかく日本版がない。これが最大の欠点であろう。

実際に使うとすれば、レベル3、4以上になって「タッチの勉強をしよう」ということで一回に一つずつのレッスンで4ヶ月で終了という感じ。主教材とは別の副読本ですね。

相当頭が良く理屈っぽい子、もしくは中学生以上の生徒、家にグランドピアノがある生徒に対して使うのがベスト。ただできれば、レガート奏法においてはむしろ手首を最初に下げておいた方が良いということの説明まで先生ができることが望ましい。この本の奏法だけで弾くと、音は明確になるがぱさぱさの乾いた音の羅列になる。

先生は目を通しておくと、この本を使う使わないにかかわらず、指導に有益なヒントを得られる可能性は高い。

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