あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 教本 

 

トンプソン 現代ピアノ教本 1  大島正泰訳    全音楽譜出版社

バイエル、メトードローズと並ぶ第3の勢力と言えるかもしれない「トンプソン」を調べる。なお1巻の前に 幼児用の「小さな手のためのピアノ教本」がある。

前書きに「パターン」の重要性が述べられている。これがいってみればトンプソンの切り開いた一つの局面であり、 以後のアメリカ系教本のほとんどに受け継がれたものである。

もちろんどの教本でも同じパターンの重要性は認識されているのだが、それを意図的に生徒に気づかせるということをし始めた、という事である。

トンプソン 1巻
曲名 作曲者 難易度 評価
ピアノのくに
 2  C
きちんとね
 2  C
さらさら小川
 2  C
町かどのおまわりさん
 2  B
白鳥
 2  C
はさみとぎ
 2  B
キャンデー
 2  C
月のこびと
 2  D
パーティごっこ 古いフランスの子どものうた  2  A
こまどり
 2  C
ゆかいなピエロ
 2  C
カッコーさん ドイツ民謡  2  A
城壁をのぼる
 2  C
鐘の音
 2  C
とび石
 2  A
山のぼり
 2  D
和音のあそび
 2  C
妖精のハープ
 3  B
おほしさま ドイツ民謡  2  C
ぼくのふね
 2  A
春の口笛
 3  A
舞い落ちる木の葉
 3  C
オランダのダンス
 3  B
妖精の宮殿
 3  A
きつつき
 3  A
ナイトとレディ
 3  B
モーツアルトの曲から モーツアルト  3  A
小さなワルツ
 3  B
夜のうた
 3  C
青がんばれ
 2  C
かっこう時計
 3  B
歌うねずみ
 3  B
バースデー・ケーキ
 3  A
ポップコーン屋さん
 3  A
メリーゴーランド
 3  B
スペインのフィエスタ
 3  A
キツネ狩り
 3  A
シリアに寄せて
 3  A
かえるのコーラス
 3  B
そり
 3  C
小さなボーピープ
 3  B
夕べの鐘
 3  C
お百姓さんのダンス
 2  B
なつかしいむかし ベイリー  3  A
きよしこの夜 グリューバー  3  A
鍵盤のあそび
 3  B
特急列車
 3  A
摩天楼に寄せて
 4  B
ダブリンの町
 4  A
ジョン・ピール スコットランド民謡  5  B

作曲者名が記されていないものは、トンプソン作曲と思われるもの。

○ピアノのくに ハ長調のポジションと、フレーズについての説明がある。最初から左右異なることを弾かせている。 アメリカでピアノを習い始める年齢が相当高いということであろう。日本の子供たちには前に述べた「小さな手の ためのピアノ教本」から入るのがいい。

○きちんとね 音楽の形式についての説明があり、メロディーのパターンが説明されている。そのパターンを 守るために曲そのものを少し犠牲にしている感はある(7小節目右最後はDの方が音楽としては自然)。

○さらさら小川 パターンの復習があり、リズムとアクセントについての説明がある。タイが出てくる。3拍子。

○町まどのおまわりさん テンポの説明がある。2拍子。1、3、9、11小節の右はスタカートと思われる。 歌詞を読めばそのように弾いてくると思うが、9小節目だけは歌詞から説明が出来ない。「他と同じように弾こう」 と言う以外にないかな。2、4、10、12の左は右の模倣ということで。

○白鳥 音の明暗という説明があり、強弱記号が一気に5つ出てくる(f、mf、mp、p、pp)。ついでにmoderato とlegatoとritが出てくる。少々強引。

ここで半音と全音、臨時記号についての説明が2ページある。

○はさみとぎ 臨時記号登場、松葉のcresc,dim登場。臨時記号がある分、音楽としては優れたものになっている。

○キャンデー ト長調と調号の説明。ポジションは移動しないので、黒鍵は使用しない。

○月のこびと この曲だけ何となくバイエルに似ている。andante登場。ハ長調に移調しろとあるが、私は不要と思う(絶対音感 がつく前に全調訓練をすると、絶対音感習得の妨げになるというデータが出ている。アメリカ系教本は一般に絶対音感に 意を払わない)。

○パーティごっこ アウフタクト(という言葉は使ってないが)の説明。民謡についての説明。同じパターンの繰り返しだがなかなかいい曲である。

ここでフレーズの弾き方についての説明がある。いわゆるドロップ&ロールである。これは教師の間で意見が分かれていて 教えないほうがいいと言う先生もいる。私は教えるほうがいいと思う。

○こまどり ハ長調だが左のポジションが異なる。同じポジションをあまり長く続けると、指の番号=音と勘違いする子どもが 必ず出てくる、それを防いでいる。ドロップ&ロールの練習。

○ゆかいなピエロ これもドロップ&ロール。指使いのパターンの説明がある。ポジションの移動。アクセント登場。

○カッコーさん 日本で流布されているメロディーと一部異なる。ff登場。これはドロップ&ロールは不要と思う(ここらへんの 見分けが難しいのが欠点といえば欠点)。

楽典的なテストがある。相当年齢が高くないと答えるには難しいものがある。

音階の説明がある。左右分割で弾かせているのでクロス不要。この段階で導入するのであるならば、この方がいいであろう。

○城壁をのぼる Cの音階練習。Allegro登場。

○鐘の音 下降音階。出来上がったら、先生がペダルをつけてやるといい。

○とび石 半音的進行を使った佳曲。

音程と3和音についての説明がある。いきなり展開形まであるので、低学年の場合はパスしてもいいだろう。

○山のぼり 和音を分散しているという説明がある。曲としてはバイエル的で陳腐。

○和音のあそび ここで3和音が出てくる。ヘ長調登場。

○妖精のハープ 初めての演奏会用の曲とある、長いということ。アルペジオが登場。交差登場。なお交差の指は42でもいいと思う。 (53にしているのは指使いのパターンを一致させるためだろうが)

○おほしさま 8分音符登場。ポジションの移動についての説明(すでに出てきていると書いてある)。

○ぼくのふね 「ちょうちょう」です。ドロップ&ロールの指示がある。フレージングを守ると大分変わった 「ちょうちょう」になる。ニ長調。

○春の口笛 イ長調。6度ポジション。Andantino登場。交差あり。さほど難しくない。発表会に使える。 ここら辺からトンプソンはいい曲がそろってくる。

○舞い落ちる木の葉 アクセント登場。

○オランダのダンス 舞踏曲についての説明がある。2,3拍目に軽いスタカートがあると思えばいい。

○妖精の宮殿 フェルマータ登場。右にレガート、左にスタカートがあり、結構難しい。

楽典テスト2がある。

○きつつき これも入門者用名曲。手首からのスタカート。

○ナイトとレディ イ長調。曲名がぴんとこない。

○モーツアルトの曲から 付点4分音符の説明がある。K.331、1楽章テーマの編曲。私の知る限り最上。

○小さなワルツ 著者自ら書いているがブラームスのワルツのぱくり。最後のフレーズの4分音符はノンレガートがいいだろう。

○夜のうた 変ロ長調登場。ポジションの移動はまったくない(曲としてもいまいち)が、変ロは弾きにくい。

○青がんばれ 8分の6拍子。

○かっこう時計 ドロップ&ロールの指示。アウフタクトからのこういう形は確実に使う。

○歌うねずみ ここまでの3曲が8分の6の練習。

○バースデー・ケーキ D.SとFineが出てくる。ポジションの移動はないがいい曲です。高学年の子にはフレージングを考えさせてもいい。

○ポップコーン屋さん D.Cが出てくる。転調がある。子どもは結構喜ぶ。

○メリーゴーランド これも転調があるが、ニ長調で基本ポジションだけなのでCisを使わないため、調号はそのまま。

○スペインのフィエスタ シンコページョンの説明。私はこれは名曲だと思うのですが、どうも子どもはいまいち喜ばない、 高学年以上向きかな。

○キツネ狩り 3拍目と6拍目のスタカートを次につなげてしまいやすい。

○シリアに寄せて この曲名は「シシリアに寄せて」の誤訳と思われる。

楽典テストの3がある。出てきていない調性の音階やら3和音やらのテストがある。次のテスト4で全調出てくるから ミスではないんだろうが、これはやはり高学年以上もしくは相当特殊な子ども意外無理。

○かえるのコーラス 3小節目右の4分音符はノンレガートもしくはスタカート。

○そり 重音のスタカート。

○小さなボーピープ 変ホ長調。pppが出てくる。

○夕べの鐘 腕を使う弾き方の説明がある。コラール。

○お百姓さんのダンス ホ長調だが易しい。

○なつかしいむかし 「ロングロングアゴー」です。

○きよしこの夜 通常歌われているものと最後の部分でリズムが違う。

○鍵盤のあそび スケールの練習、といっても左右分割です(あまり意味がない気がする)。

○特急列車 トリルの練習になるのかな。

○摩天楼に寄せて 変イ長調。基本ポジションだけだが、それでも黒鍵4つで初めは抵抗があるかもしれない。

○ダブリンの町 アメリカ系教本は短調の登場が遅い。中間部がホ短調。

○ジョン・ピール 一巻の最後というせいか、突然難しくなる。16分音符登場。

楽典テスト4がある。

最後に「技術的な練習問題」としてテクニック課題が16ある。これは最後にまとめてではなく、適宜使用していくべきである。

総合評価   A-

難点はいくつかあります。それでも収録曲の音楽的な高さから見て、この本が現在もなお入門者用教則本としてトップクラスのものであることは間違いないでしょう。

難点を先に挙げますと、対象年齢がやや高いと思われ、楽典の説明の一部、テスト等は日本の普通の子どもたちには使いづらい。

理論的に緻密でないという批判を見かけることがあります。たとえば最後の曲が16分音符の導入にふさわしくないというような批判です。それは正しいですが、私に言わせれば子ども向き入門者用教本としての欠陥としては些細なことです。たとえてみれば言葉をマスターするのに文法が必要がどうかということです。子どもにはまったく不要でしょう、大人ならば文法の知識が習得に役立ちます。同様に子供用ピアノ入門書も、音楽的に優れた曲を集めて、その弾き方を教える、理論は後から整理するで構わないのです。

短調の導入が遅い(この巻にはない)のが欠点といえるかどうか。アメリカ系教本は大体すべて遅い。

パターン認識を導入したということが特徴の一つ。アメリカの心理学の成果であろうか。基本的に5度、6度ポジションでとどまり、ポジションの移動は同パターンのオクターブ移動で行っている。これも後のアメリカ系教本に受け継がれる。

当会が高く評価するのは、入門書でありながら評価Aの楽曲が3分の1近くあること(まあ、大半は難易度3からだが)。これはピアノランド を上回るパーセンテージです。

そしてこれはあまり気づかれていないことですが、もう一つ高く評価すべきは、この本は同じポジションの曲を長く続けることがない(最高で連続5曲)、つまりたとえばバイエルですと指使いの1=ドと思い込んでしまう、というようなことがよくあるのですがそれがまず起こらない。先生が何も考えずに使用していて、OKであるということ。

クロスの出現が遅い(この巻では出てこない)のも特徴。スケールは左右分割になる。

これ以降のアメリカ系教本は、楽典やらテクニックやら併用曲集やらに分化し、同じレベルで何冊も買わせるものが主流となった。これは教師の好みによるが、私は教師の自由度をあまり奪ってしまう教本は好きではない。トンプソンの説明くらいで ちょうどであろう。

また、アメリカ系教本の中では最も正統的クラシックに近い。ジャズ、ラグ、ブルースの類は収録されていない。アメリカ系教本の軽さが嫌いだという先生にも大丈夫であろう。ただしそういうものまで含めたものがほしい方には物足りないかもしれない。

なお、最初にも書いたが、小学3,4年生以下の場合、導入用の「トンプソン 小さな手のためのピアノ教本」を先に使用すべきである。

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