あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 教本 

 

ゆめのミュージックトレーン ピアノさん こんにちは ①  成田剛 編著 橋本金夢 絵   音楽之友社

 今回はお約束の「ゆめのミュージックトレーン」の最初の巻、この本ともう一冊「ドレミでうたいましょう」というソルフェージュの本があり、その2冊でレッスンを始めるというのが著者の構想である。著者の予定としては4才でスタートし、1曲に2週間かけて、この巻を1年で終了、ということらしい。もちろん子どもの個人差があるわけで、スタート時はともかく、そのうち普通の子どもは一度に1曲では物足りなくなると思う。

 さて、「ゆめのおんがくれっしゃ」という曲が最初に載っている。これは先生用であろうが弾き語りを聴かせてあげるのだろうか(歌というか声にに自信のない先生は、とばすのかなあ)。テレビ番組なら毎回主題歌として使うことが可能だが、実際のレッスンでそんな風に使うというのは? まあ、無視してもいいし、子どもが教室に入ってきたら、さっとこの曲をいつもならしてあげるとかしてもいいし、なんとでもなるのかな。

1.ピアノのおとは 中央のCから。4分音符と4部休符。指は左右の色々な指で弾けとある(これはいいことです)。他の教本と異なるのは、メロディはソソミミソソミ、ドドド、ドドドでそのうちのドドドの箇所だけ生徒が弾くようになっている。つまり最初から一応曲っぽいというのが長所、短所と言えるかどうかは分からないが、2小節子どもにとっては長い休みがあるということ(歌わせればいいから、短所とは言えないと思う)。

2.ドのおんぷ 同じく中央のC、曲としては1よりずっと良いが、8分音符がある(余り遅いと曲が損なわれる)。腕が堅くなる危険あり。

3.このゆびとまれ D登場。最初の8小節が歌うだけになる。

4.ひよこちゃん この曲から普通の教本と同じく全てのメロディーを弾くことになる。左手は指の指定がない、12と23の両方で良いと思うが、右は12の指定がある(これも23でも弾かせてやればいい)。

 ここで「ゆびのたいそう1」が入る。「すたかーと」という言葉が突然出てくるが、ソルフェの本に説明があるのでしょうかね。先生が範奏して「こういう風に弾くの」と言えばそれですむことだが。「りょうてでもひいてみましょう」とあるが、4歳児のこの段階ではまだ困難だと思う。この二つは飛ばしてもいいだろう。

5.キューピーさん E登場。スラー登場。

6.うさぎが ぴょん ぴょん 重音登場。同時ではないが、一応両手奏。スタカートがここで登場している(このあとに指の体操1を入れても良い)。

7.ゴーカート F登場。二分音符登場。F dur。良い曲です。

8.あかい ばらが さいている 3拍子。右手とあるが左でも弾かせればいい。

9.ぶらんこゆれる G登場。5の指が出てきたのだが、少し早い気もする。これは右だけがいい(左で弾くと5の連続が生じる)。

10.はじめての ワルツ 左手。もちろん3拍子。寸詰まりというか、音域の制約上縮めてしまったような感あり。私なら8小節目の後ろに4小節入れる(たとえばドミソ ドミソ ラファファ ファ・・後半は右手で弾かす。最後はたとえばソミミ ファレレ ファミレ ド) 

11.えいこらさ 音域D~A、ニ短調。左手でも弾きましょうとある。私は自分の作った入門教材ではGまではこの本と同じように、同じ曲を左右両手で弾かせるのだが、Aからは右だけにする。左で弾かせると少し姿勢が歪む。

12.きらきらぼし 14で分散5度を弾かせている、おいおいというか、ええっというか。私は詳しくはないが、アメリカ版(日本版も同じかな、詳しい方教えて下さい)鈴木メソードが確か最初の導入にこのきらきら星を使っていると思う。私は導入段階に置いてはポジションの移動や6度の位置は避けるべきだと思うが、必ずしもそう思わない先生もおられるということでかたづけていいのかな? レパートリーということで子どもになじみのある曲にしたのだろうが5度のポジションでもあるはずである、かっこうとか、ぶんぶんぶんとか。とにかく普通の4才の子どもには突然難しくなっている。(大体日本の4歳児は普通14の5度は手の大きさ自体がギリギリだと思う)

ここで「ゆびのたいそう2」が入る。

13.あひるの ぎょうれつ 11と同じくニ短調。マイナーっぽい雰囲気はない。

14.しっ しっ ないしょだよ ト音記号下部加線のH登場。f、p、登場。これは先生パートがないとやや妙に聞こえる。この曲から、余裕がある子には、ということで小音符で両手用の音が部分的に記されている。  

ここで「ゆびのたいそう3」が入る。

15.とうさんのつくる カレーライス FisとDisが出てくる(Disは余裕のある子だけ)。著者の方針として1巻はト音記号だけですませるらしい。それは構わないが、そのせいで下のHの扱いにやや困っている感は受ける。前曲もこの曲も他の曲に比べ、やや見劣りする。

16.ちょうちょう きらきらぼしに続く「レパートリー 2」である。このHは自然。最後の段の重音、FAは31,次のEGに指示がない。31かひょっとして21? この段によってこの曲全体の難易度が一段上がり、私はこの段は省いても良いと思うが、付けるのなら指はFAを42、次を31とすべきです。これは著者のミスだと思う。

17.まっかな ゆうひ H登場。12のクロスがある。クロスとしては一番易しい形だが、それでも驚く。

ここで「ゆびのたいそう4」が入る

18.おとうさんと ピクニック 曲そのものはなかなか良い、やはりクロスがある。フェルマータ登場。

19.しんかんせんは はしる 上のC登場。

20.ぶんぶんぶん 「れぱーとりー3」です。ff登場。第1変奏で右手の5の連続が出てくる。4歳児にはどうかと思う。

21.サンタクロースが やってきた フラット登場。D.C.とFine登場。

22.もしもし でんわ 12の分散3度がある。

23.おばけの けばお ナチュラル登場。半音的進行。題名も曲も面白い。

24.ことばあそび 子どもは喜びそう。最後にちょっとした冒険がある。

25.フォークとナイフのダンス レパートリー4とあるがこれまでの3曲とは異なり、成田さんの作曲である。mfとmarcatoがでてくる。最後にクラスターがあるが、少々とってつけた感あり。

総合評価   B

 どう評すべきか、少々迷う本です。(評価に迷うのではありません、評価はBで動きません)

 当会が最も重視する曲そのものについては、たとえば評価Aを勝ち得たピアノランドにほとんど劣るものではありません。

 問題は、他の入門書(その導入段階)ではまず見られないような事柄が、ちょくちょく出てくるということです。指間の拡大、ポジションの移動、12のクロス。これらをどのように考えるべきかということになります。

 私はこの本を生徒に使ったことがありません、最終的判断は実際に使った上でしか言うことが出来ず、机上の空論であることは、会員諸子の念頭においていただいた上で、私としては一般的に使用する教本としてはやや冒険が過ぎるような気がします。

 子どもは興味のあることなら、少々難しいことでも付いてくることが可能である、ということは事実です。従ってたとえば「きらきらぼし」の指間の拡張に、それほど手こずることは多分ないと思われます。しかしこの本の12番の段階において、指間の拡張を修得すべきなのかどうかという疑問がまず一つ、5度のポジションを完全にマスターする以前の段階において6度ポジションを与えることが、いいのかどうかということです。

 私は、5度ポジションの把握以前の段階で6度ポジションを与えることには賛成できません。また、この本において「きらきらぼし」が例外として扱われていることは(つまり成田さんも、12番の段階で6度ポジションをマスターすべきだと判断しているわけではないということは)、次の指間の拡張が22番まで出てこないということからも明らかでしょう。

 たまに例外があることは、ある種の緊張感があって、プラスに働く場合もあり、例外を一切認めないというのは少々硬直した頭脳ですが、前に検討したこのシリーズの3冊目の難易度から考えても(3~4くらいでした)、一冊目の段階において、通常の5本の指のポジションから次々逸脱してしまうということは、一般的教本としては少々首をひねらざるを得ない。子どもは自分の習っていることを無意識のうちにそれなりに整理しているのだが、子どもによってはその作業が困難になり混乱してしまう危険があると思う。

 一般的教本としては首をひねらざるを得ないが、相当頭の良い子、知的好奇心の旺盛な子にはむしろぴったりくる可能性はある。自分で、ある種の分類、という作業の可能な子である。小音符まですべて弾かせればいい。

 ただ入門初日でその子の頭の善し悪しはなかなか判断できないのが普通である。教師としては、すでにレッスンしている生徒の弟妹が来た場合、「あの子の兄弟なら大丈夫かな」という感じで使ってみることになろうか。

 あるいは他の入門書で行き詰まった生徒に再チャレンジさせる教本としては、色々逸脱している分、かえってなかなかよろしい。

   

追)上記の、この入門書が子どもに混乱を与える可能性についてですが、少々大げさに受け取られる可能性があるので付記します。

 整理しますと

 例外を一切認めず、一つの事柄を把握し終えてから次の事柄に移る・・混乱の可能性0。

 でたらめに与える・・混乱の可能性100。

 実際はこの両者の中間のどこかになります。その場所がこの本の場合、通常の教本よりも少々混乱度(という言葉を作りまして)の数値が高いということになるわけですが、10も20も高いということはないです。数パーセントでしょう。

 つまりある意味の「熟成期間」がどの本にもあります。たとえばトンプソンですと、6度ポジションはすぐ出てきますが、その期間が結構長く、その間に生徒は5度ポジションと6度ポジションの整理が出きるわけです。

 この本の場合、この1巻で出てきた事柄と、「ピアノエチュード1」(つまり3冊目)に出てくる事柄を比較してみて、さほど新しい事柄は出てきていないのです。つまり最初にやや多目の事柄をぽんと投げつけてはいますが、一応その熟成期間はたっぷり取ってあるともいえます。

 実際問題としてはほとんどの生徒が併用曲集なり、発表会用の特別の曲なりで必ず例外事項にぶちあたっています。この本の使う場合の注意点としては、教本だけですでに例外の数が多いということに留意して併用曲の選び方を慎重にすることでしょう。

 むしろ教本としての欠陥は、ある種の不注意としか言いようのないことが時々見られるという点にあるかもしれません。4歳児用とは到底思えない5指の連続、あるいは16番の指使いのミスなど。

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