あるピアニストの一生

ピアノ教材研究 練習曲集 

 

ツェルニー30番練習曲 Op.849  各社

チェルニーで最も使われている30番練習曲を検討します。その前に、なぜ当会が練習曲集を検討の対象にあまりしないのか 、についてご説明します。

ひとことで言えば、練習曲は難易度の決定が難しいというかほぼ不可能に近いということです

楽曲の場合、その曲にふさわしいスピードというものがあります。もちろんそれは幅がありますが、ピアノ教師なら 少なくともこのくらいの速さ、あるいは本当ならこのくらいの速さ、というものがだいたい共通項で出てくるものです。

練習曲の場合は、分かりやすい例を挙げますとハノンのスケールは(曲ではないですが)、四分音符60でも120でも180でも、 練習になります。初級者には60、プロ級には180という感じで。従ってあれは難易度をつけることができません。 適正なスピードというものがないのです。

今回のチェルニー30番も、指定速度はありますが、これを指定速度で練習している生徒には、私はお目にかかった ことはないです。速くても、せいぜい7~8割、町を歩いていて聞こえてくるスピードは5割以下というのもざらです。 そして5割で弾いてもそれなりに技術向上の練習にはなるのです、もちろん7割で弾く生徒よりずっと技術的に劣るわけですが。

ということで、楽曲としての価値のあまりない練習曲については、今後ともリクエストがない限り、こちらから俎上に載せることは あまりないとお考えください。

今回のチェルニー30番の難易度、指定速度の7割ほどで弾く場合と、お考えください。

なお、評価は楽曲としてのもの。

番号 難易度 評価
 1 11  C
 2 11  C
 3 11  D
 4 11  C
 5 11  C
 6 12  B
 7 12  C
 8 12  D
 9 13  C
10 12  C
11 13  C
12 12  C
13 14  C
14 13  C
15 14  C
16 13  C
17 14  C
18 14  C
19 15  C
20 13  C
21 13  B
22 14  C
23 14  C
24 13  C
25 14  C
26 14  B
27 13  C
28 14  D
29 14  D
30 15  C

○1.5小節目、もつれやすい。指を変えるとはるかに易しくなるが指示通りにすべき。9小節目からの保持音で 不要な力が入らないように。なおプロ級の人で、これをいきなり指示速度で弾いて、もつれてしまうという人は、 指の独立がまだ不完全、ランゲンハーンの「ピアノのための指の訓練」をするとよい。

○2.単純明快な音楽で、音楽としては分かりやすいが、まあこれを好きだと言う子は、どちらかといえばスポーツ 的快感を味わっているんだろうと思う。

○3.これは指示速度が他と比べて遅いと思う。

○4.これは指回りの速い子は、そこそこの速さで弾きこなせるはず。

○5.これはリズムの処理に問題が残る曲。通常は最初の32分音符を左のGとCの真ん中に入れる。もちろんこれは 厳密に言えば間違いである。しかしこの段階で厳密な正確さを要求するべきかどうかが第一の疑問。もう一つの疑問は この時代、まだ記譜法が確立されていない(確立されつつある時期、たとえばシューベルトは慣用的でいい加減、ベートーヴェンは 相当厳密に記した)、チェルニーの意図自体が不明、慣用的記譜法からは右手をすべて3連符扱いにしても誤りと断言は できない。

○6.こういうのは好きな子がいるかもしれない。

○7.右ページの右手の保持音を正確に。

○8.右手の粒がそろうこと。

○9.普通の右利きの人には8より難しい。

○10.指示速度が遅いのは、チェルニーとしてはこのテクニックはこの曲で初めて、ということなのだろう。慣れて くれば片手で弾くより速くなる。

○11.これは7割でも相当速い。12個まとめる意識がほしい。

○12.6段目の右手の指は他にも考えられると思う。

○13.速さに関係なく一段難しくなっているのはここから。右手のスラーはレガートと思わない方が良い。 むしろleggieroを重視すること。

○14.イ長調ということだけ。

○15.この曲までに他のテクニック養成書でアルペジオをある程度習得している必要がある。この曲が最初ということになれば 無謀。

○16.テンポが遅いと易しい。速くするとむしろ跳躍の練習になる。

○17.複前打音とプラルトリラーは現在では違うが、チェルニー時代、ちょうど装飾音の弾き方の移行期にあたり、 また記譜法自体が整理されてなく、この曲でチェルニーは「同じ意味ですよ」と教えようとしたものと思われる。したがって この曲に関しては同一奏法でいいが、生徒にはきちんと説明しなければいけない。半音階の指使いが古い指使いである、 これは黒鍵に3を使う奏法に修正すべき。

○18.両手スケールが難しい。

○19.ある意味激ムズ。右手の32分音符を正確に弾くことは極めて困難。少しリズム感が良いとかえって間違える。 32分音符の二つ目が左手とあってしまう。それはクリアできても、5段めからの両手ユニゾンで、まず確実に2音目が 拍頭になってしまう。実は私の持っているモーツアルトの交響曲の同じリズムで、見事にそういう間違いをやらかしている(レコ芸の 推薦盤)。まあ、この場合は指揮者は間違っているというより、現代流ではそう演奏する方がむしろ良いと解釈しているのかもしれないが ・・私は聞くたびにゾゾゾと思い、もう何年も聴いていない。

○20.このスピードはだいぶ遅い。

○21.これも指使い修正の必要あり。

○22.トリルの練習。16分音符のスタカートは、指を振り上げて少したたくように弾くと自然にスタカートになる。 手首ごと上げてしまうと全然間に合わなくなるから、独習者注意。

○23.3度スケールの練習。

○24.左右交互の練習だが、スピードが相当遅い。昔はこういうのは苦手だったのでしょうかね。今の生徒 にはこれは8割目標で良いと思う。

○25.22番参照。

○26.私、子供のころ、この本の中でこの曲だけ好きでしたね。

○27.交差の練習。

○28.和音連打のいい練習ではある。

○29.これは大分速いスピードが指示されている。

○30.最後だけあって、両手の平行のうごきでスピードも他より速い指示。

○総合評価   A-

もちろん練習曲集としての評価です。

「ピアノの技術」というものを学ぶ最初の練習曲集として、その価値はやはりきわめて大きいといわざるを得ません。練習曲集を使う先生なら、避けては通れない曲集でしょう。また、このレベルまでは、練習曲集はほぼ不要であると断言できます。

入門のうちは、曲を弾くことがそのまま技術の向上に直結します。腕前が上がるに従って、曲の中で技術的向上に結びつく部分の割合が減ってきて、曲だけ弾いていたのでは、技術的向上のスピードが遅い、むしろ反対でしょうか、時間をかけずに技術的向上を促すために、練習曲というものが生まれたと考えられます。そしてさらに効率を良くするためにハノンを初めとするテクニック養成書が生まれました。

ということで私見では練習曲とは中途半端なものです。チェルニー30番をするよりはピアノのテクニックを毎日20分も練習する方がはるかに技術的向上が図れます。しかしまあ、なかなかやってこないんですなあ、ああいうのは。それと一応順に弾いていくことが可能なので、生徒自身にとっての上達の目安になるということはあります。

チェルニーはだいたいそうですが、右手用がほとんど。この曲集も左手用はほんの少ししかありません。

指示速度の5割以下でしか弾けないということであるならば、さすがにこの曲集を学ぶ価値が大分減ずる。もう少し上達してから再挑戦させるべき。

大人の独習者は、それなりの意識があるのだから、当然こんなものは不用である。こんなものをする時間があればテクニック養成書と自分の弾きたい曲に時間を振り分けるべきである。

上の文は、大人の生徒を持っている教師にも当てはまる。こんなものをさせるべきではない。どうしても不安だというのであればテクニック養成書の何か+スケールを全調毎日弾かせればよい。そのほうがまだ良い。

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